巨匠の面影─張大千生誕120年記念特別展,展覧期間  2019.4.1-6.25,北部院区 第一展覧エリア 会場 202,204,206,208,210,212
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張大千の自運

 張大千の画業が新たな高みに達したのは、目の疾患とも関わりがあります。張大千は1954年にブラジルのサンパウロ市に移住しました。敷地内に中国式の庭園「八徳園」を建造中、庭石を運んでいる最中に、不注意から目の毛細血管が破裂するケガをしてしまいました。1957年あたりから目の病状が悪化するにつれ、早年の作品のように緻密な絵を描くことができなくなってしまったのです。新境地に達したもう一つの理由は、1956年にパリで個展を開催した際、ピカソ(Pablo Picasso,1881-1973)に会えたことです。西洋の現代画壇の趨勢を目の当たりにした張大千は啓発を受け、画風に大きな変化が生じました。溌墨と溌彩、半皴半溌など、半ば自動的に描ける技法を創出して、自身の画芸が新たな高みに到達したのみならず、それまでなかった境地を中国絵画に取り入れるなど、画壇に絶大な影響を与えました。こちらのコーナーでは、晩期における発展の軌跡をご覧いただきます。「大千狂塗冊」(国立歴史博物館蔵)など、張大千がパリ滞在中に制作した三組の冊頁は、張大千が新しい風格に向かった重要な転換期を示す作品です。張群に贈った「山高水長」は、すでに熟達の域にあった溌彩を自在に用いた佳作です。

民国 張大千 大千狂塗冊(一)

民国 張大千 大千狂塗冊(一)
  1. 形式:冊頁
  2. サイズ:23.8x35.8 cm
  3. 国立歴史博物館寄託

この冊は十二開あり、ほとんどが1956年の作品である。張大千が初めて欧州を旅した頃で、パリでは郭有守の寓所に身を寄せた。1960年末に再度同じ題を用いているが、その内の何開かはおそらくこの時期にかれたものであろう。複数の絵を南宋の画家である梁楷と自ら比較し、梁楷を超えたと自負している。奔放な用筆は変化に富み、墨色の濃淡乾湿が巧みに生かされ、物象が明快に生き生きと描かれている。第八開は大きく塗った墨で山を表現し、余白で水の流れを表している。これ以降の半抽象的な画風の始まりとなった作品である。
民国 張大千 大千狂塗冊(二)

民国 張大千 大千狂塗冊(二)
  1. 形式:冊頁
  2. サイズ:23.8x35.8 cm
  3. 国立歴史博物館寄託

十四開あるこの冊も「子杰」(郭有守)に贈られた。(一)と同じく1956年の作なのかもしれない。張大千は1956年と1960年に同題の冊を制作したが、その内の幾つかはその時に描かれた可能性もある。第十開は、暗い水墨の広がりを背景に、松の枝と人物が浮かび上がっている。張大千は「目の病を得てから4年が経った。盲人が描いているようなものだ」と述べているが、画風においては大きな転換期となった。第四開の人物画には、「大風堂の登録商標である。古人にこれができただろうか」と書されている。古人を超えようという意欲や自信が感じられる。
民国 張大千 以写我憂

民国 張大千 以写我憂
  1. 形式:冊頁
  2. サイズ:42.1x59.8 cm
  3. 国立歴史博物館寄託

1957年の作品。その年の6月、張大千は庭石を運んでいる時に目を負傷してしまい、9月にニューヨークまで赴いて治療を受けたが、11月にも東京で医者の診察を受けている。本作は米国と日本で目の治療をしていた頃の作品で、郭有守に贈られた。作品全体に脱俗的な郷愁や、退屈している病人の心情、目を病んでからの朦朧とした感じがあり、自身を投影したと思われる人物画が複数枚ある。第七、第八、第九、第十開の裏面には詩文がある。張大千が同時期に郭有守に贈った作と考えられる。
民国 張大千 画八徳園景

民国 張大千 画八徳園景
  1. 形式:軸
  2. サイズ:173.3x94 cm

張大千が1953年末にブラジルを旅行した際、サンパウロ付近の売り地が故郷成都の平原に似ていたので購入し、しばらくその地で暮らすことにした。地名がMogiだったので、その家を「摩詰山園」と呼んだ。庭に作った池は、仏教経典にある「八功徳水」から「八徳池」と名付けられた。1961年に制作された本作の構図は、伝統的な様式とは大きく異なっている。左右の岸辺がそれぞれ上に伸び、一方は山に、もう一方は林になっている。1957年、張大千は庭石を運搬中に負傷し、目の毛細血管を傷めてしまった。それ以降、細かな表現が必要な絵を描くことは次第に少なくなった。
民国 張大千 山高水長

民国 張大千 山高水長
  1. 形式:軸
  2. サイズ:192.5x102.5 cm
  3. 張群氏寄贈

1976年に描かれた本作は、古い友人である張群(1889-1990)の88歳の誕生祝いに贈られた。主峰は溌墨を重ねて表現してあり、天を支えているかのような迫力がある。山の輪郭線は墨で描いて皴法と苔点が添えてあり、建物や帆影が浮かび上がっているように見える。中央に大きく置かれた色が叙事的な雰囲気をかもし出し、遊ぶことも住むこともできる山水となっている。鮮やかな緑色の顔料は、乾燥させると自然に寄り集まって堆積し、美しい模様を描き出す。本作は自然に生ずる溌彩の非制御性と伝統的絵画の制御性の狭間にある、晩年の佳作である。