巨匠の面影─張大千生誕120年記念特別展,展覧期間  2019.4.1-6.25,北部院区 第一展覧エリア 会場 202,204,206,208,210,212
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張大千と敦煌

 1940年代初め、葉公綽は張大千を激励して、芸術という分野では『道を切り拓いて独行』すべきで、それでこそ伝統絵画に新たな創造を与えるという重責を担うことができると言い、そうした励ましが最終的に張大千を敦煌壁画の模写へ向かわせることになりました。張大千は敦煌で2年7ヵ月もの間、積極的に学びながら276幅ほどの壁画を臨模し、宋元代の画風の制限を突破して、唐代と北朝の高古な趣にまで遡りました。それ以降、張大千の芸術思想や創作手法に大きな変化が生じます。仏像と人物画を重んじるようになり、線の表現に重きが置かれ、復古の勾染を追求し、精緻な表現が雄大に、簡潔な表現が緻密になり、女性の健康的な美を描くなどの変化が見られるようになりました。また、精麗でありながら雄健な画風を創出し、それまでになかった斬新な作品を発表しました。この度の特別展では、「摹釈迦説法図」や「摹楡林窟唐菩薩立像」、「摹宋代伎楽」などの人物画を展示します。生気溢れる滑らかな線の表現や、端正かつ重厚な色彩表現、豊かな精神性を備えた人物像をご覧ください。これらの佳作は古代壁画の神韻を再現しているのみならず、張大千がどのようにして古の趣を新たな表現へと進化させ、独自の道を切り拓いたかを示す作品でもあります。

摹敦煌莫高窟第二五七窟北魏須摩提女請仏因緣

摹敦煌莫高窟第二五七窟北魏須摩提女請仏因緣
  1. 形式:卷
  2. サイズ:62x591.7 cm
  3. 張大千氏寄贈

いわゆる「因縁故事」とは、衆生を教化するための様々な事跡のことを指す。敦煌石窟の「須摩提女請仏因縁」は、敦煌研究院編257号窟のみに見られる。張大千は1943年にその後半部分を模写した。左から右へと、神通力を発揮した仏弟子たちが神獣に乗って飛来する様子が描かれている。最後は金剛力士とともに、説法する釈迦仏を取り囲んでいる。未完成ではあるが、原作に見える人物の姿かたちが精確に捉えてある。また、張大千は各種の赤や赤褐色系の色彩の復元も試みており、それに青や緑、白などを合わせて、原作の持つ鮮明で躍動的な雰囲気を再現している。
民国 張大千 摹敦煌莫高窟初唐藻井

民国 張大千 摹敦煌莫高窟初唐藻井
  1. 形式:軸
  2. サイズ:64.6x65.1 cm
  3. 張大千氏寄贈

西魏と北周以前、敦煌石窟の壁画や天井の藻井には、濃厚な赤系の色が多く使われていた。初唐に至ると、次第に青や緑、白も使われるようになり、明快だが深みのある表現となった。この作品は敦煌研究院編329号窟を模写したものである。方形の藻井の中央に大きな蓮の花形の模様が描かれており、その周囲は漢風の線に変えられている。雲中を旋回しながら舞い飛ぶ飛天が、回転する天を仰ぎ見ているような感覚を観る者に与える。方形の内側の四隅に対称的な花の模様があり、その外側は巻草紋や連珠紋などで囲まれ、初唐の時代的特徴が美しく再現されている。
民国 張大千 摹敦煌莫高窟盛唐藻井

民国 張大千 摹敦煌莫高窟盛唐藻井
  1. 形式:軸
  2. サイズ:68x67 cm
  3. 張大千氏寄贈

「藻井」とは、天井に木材を重ねて組んだ「井」字形の構造で、色鮮やかな花々の模様が描かれていることから、「木材を組んで井とし、絵をもって藻紋とする」と言われる。敦煌石窟の天井は木材を使った箇所はなく、絵模様で装飾されているのみである。盛唐になると、中心の方形が小さくなり、地色には薄紅色や淡い朱色が多く使われるようになった。外側の枠は4層または5層に増やされ、内側の枠には青や緑の巻草が、外側の枠には牡丹や宝相花紋が描かれることが多くなった。この作品には、盛唐の藻井の描線が鮮明に描かれている上、配色も記録されており、作画の手順もわかる。
民国 張大千、張心德 摹敦煌西千仏洞第十一窟釈迦説法図

民国 張大千、張心德 摹敦煌西千仏洞第十一窟釈迦説法図
  1. 形式:軸
  2. サイズ:119.7x96.9 cm
  3. 張大千氏寄贈

敦煌研究院編西千仏洞9号窟の模写。中央で結跏趺坐する世尊の身体はどっしりと大きく、軽く挙げた右手で説法印を結び、荘厳な表情で観る者をじっと見つめている。その両側に控える菩薩は華やかな天衣をまとって瓔珞を身に付け、世尊に顔を向けて、じっと耳を澄ましているようにも見える。下の方には、白描による比丘尼を含む九人の信徒らがかしずく姿が描かれている。人物の頭部は若干大き目で、顔と胸はふくよかな楕円形だが、豊満すぎるということもない。初唐から盛唐にかけての風格が見られ、原作の神韻を伝えている。
民国 張大千 摹敦煌莫高窟第三二七窟宋代伎楽

民国 張大千 摹敦煌莫高窟第三二七窟宋代伎楽
  1. 形式:軸
  2. サイズ:51.4x72.4 cm
  3. 張大千氏寄贈

敦煌研究院編327号窟仏座下方の伎楽菩薩の模写。画中の菩薩は排蕭(古代の吹奏楽器)を持ち、色とりどりの珠冠や瓔珞、色鮮やかな帯を身にまとっている。華やかで高貴な衣装が濃紺の背景に映えて、より一層美しく見える。両側の色帯は音楽に合わせて翻っているかのように見え、半空中に大小異なるS字形を描き出している。身体に纏わりついたと思ったらまた広がり翻る色帯が、ゆらゆらとたなびきながらも対称的な形を作り出している。神妙な表情を浮かべ、荘重な雰囲気を湛える菩薩の姿と色帯が互いに映えて、律動感溢れる画面となっている。
民国 張大千、番僧昂吉 摹敦煌安西楡林窟第二十八窟唐菩薩立像

民国 張大千、番僧昂吉 摹敦煌安西楡林窟第二十八窟唐菩薩立像
  1. 形式:軸
  2. サイズ:237.2x96.5 cm
  3. 張大千氏寄贈

敦煌研究院編楡林28号窟の模写。原作には、菩薩のほかに阿難尊者と思われる青年僧もいて、仏龕内の仏像の脇侍として描かれている。菩薩は仏龕内の主尊に身体を向けて合掌している。顔を左に向けているのは、仏龕に手を合わせる人を見つめているようにも見え、仏龕の内外を結び付ける役割を果たしている。張大千は原作を模写する時に独自の工夫を加え、僧侶を省いて独立した精美な竹林観音像とした。