巨匠の面影─張大千生誕120年記念特別展,展覧期間  2019.4.1-6.25,北部院区 第一展覧エリア 会場 202,204,206,208,210,212
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張大千と臨模

 前半生で「集大成」を目標としていた張大千は、古画の臨模を創作の基礎とみなしていました。明代末期から清代初期に活動した画家─石涛や八大山人、張飌などから臨模を始めました。その後は古画収蔵に対する関心が高まり、視野が広がるにつれ、五代から宋元代の名家にまで遡って模写に励みました。遠く敦煌にまで足を運び、唐人の描いた壁画の模写に取り組んだのは、自らの境地を切り拓くためでもありました。だからこそ、士夫画と匠人画の融合も可能となり、浅絳山水と工筆重彩─いずれにも優れていました。倣古の作品であっても、多様な伝統的画風を取り入れつつ、当時の画壇に新鮮な驚きを与えることができたのです。こちらのコーナーには、張大千と古代の大家の作品を並べて展示し、その芸術の淵源をご覧いただきながら、画風の発展において大切な役割を果たした「模写」の重要性をうかがい、張大千が描いた様々な題材に見られる創造的成果を明らかにします。こちらに展示する董源の「江堤晚景」は、1945年から大風堂に収蔵され、張大千に大きな影響を与えました。また、張大千の「倣沈周蜀葵図」は、沈周を模写した数少ない作品の一つです。

民国 張大千 倣沈周蜀葵図

民国 張大千 倣沈周蜀葵図
  1. 形式:軸
  2. サイズ:134x37 cm

この作品は1929年に題された。その時、張大千は大連湾に旅行中だったが、寒さのあまり眠ることができず、この絵を臨模し原題を入れた。張大千が模写した作品は、無錫博物館所蔵「沈周書端陽詞‧張宏補蜀葵図」である可能性もあるが、構図が異なっている。自由に筆を揮って描かれたタチアオイの線は止めや転折が多く、墨色は美しく鮮やかで、速写ならではの味わいがある。張大千の作品中、沈周の模写はかなり珍しい。「臨写」としているが、原作をおおまかに写しただけなのかもしれない。張大千は数々の名家を模写したが、作品ごとに異なる点を取り入れていたとも思われる。
民国 張大千 猿

民国 張大千 猿
  1. 形式:軸
  2. サイズ:151x65 cm

1935年の作品。猿の絵で名高い北宋の名家易元吉の作品を模倣したと、張大千は述べている。また、18世紀揚州の画家華喦の作品にも似たような絵があるということで、華喦の詩も書してある。画中の猿は左手で木の枝にぶら下がり、右手で何かを取ろうとしており、両足は丸めて持ち上げている。フーリア美術館(米国)所蔵の伝易元吉「縛猴竊果」を元に描かれた可能性もあるが、背景は華喦の「霜林猿戯」の詩意に置き換えられている。古人の作品を模写する際、構図や配置に新たな画意を加えるのは、張大千がしばしば用いた手法である。
民国 張大千 巫山雲雨図

民国 張大千 巫山雲雨図
  1. 形式:軸
  2. サイズ:151x65 cm

早年、張大千は石涛に心酔し、黄山の風景を多数描いたが、1930年代からは三峽の景色を描き始めた。この変遷は唐代楊昇の「没骨山水」の伝統を研究したことと関わりがある。「没骨」とは、墨線で輪郭を取らず、直接着色して形を表現する絵画の技法を指す。この作品は1935年に制作された。神女峰と思われる主山は泥金を混ぜた朱色で描かれており、そこに墨色の点が添えられている。華やかだが落ち着きがあり、俗に流れてはいない。広い範囲に色が使われている点は、その後に発展する溌彩の前兆とみなせるかもしれない。
五代 董源 江堤晚景

五代 董源 江堤晚景 国宝
  1. 形式:軸
  2. サイズ:179.5x116.5 cm
  3. 大風堂遺贈

着色は青緑、山石は披麻皴で描かれている。14世紀の作品と思われる。

張大千は1938年に北京で初めてこの絵を目にし、1946年初めに入手した。生涯を通して一度もこの絵を手放そうとはしなかった。この作品を愛蔵しつつ、当時の名士たち─溥儒や謝稚柳、龐萊臣、呉湖帆、葉公綽などに題識を求めて回った。画中の老木は30回以上模写しており、全図臨本が少なくとも三幅残されている。張大千の絵に見られる魚の鱗のような波紋は、この作品から発想を得たもので、張大千に極めて大きな影響を与えた。
民国 張大千 画華陽仙館

民国 張大千 画華陽仙館
  1. 形式:軸
  2. サイズ:148x71.4 cm

張大千は董源特有の気概─広大かつ秀逸な趣を学ぶのは容易ではないと考えていたが、董源の「江堤晚景」などの作品を入手してからその筆法の妙を悟り、1949年にこの作品を描いた。遠景の左側に見える遠山や漁舟、画中の波紋は、董源「江堤晚景」の中にも見られる。全図に皴法と苔点が層をなして重厚に重ねられ、滑らかだが整った線で描かれた水閣と波紋など、工写兼備だと言えよう。画面に彩を添える石青と赭紅が、豊かな美しさをかもし出している。