前半生で「集大成」を目標としていた張大千は、古画の臨模を創作の基礎とみなしていました。明代末期から清代初期に活動した画家─石涛や八大山人、張飌などから臨模を始めました。その後は古画収蔵に対する関心が高まり、視野が広がるにつれ、五代から宋元代の名家にまで遡って模写に励みました。遠く敦煌にまで足を運び、唐人の描いた壁画の模写に取り組んだのは、自らの境地を切り拓くためでもありました。だからこそ、士夫画と匠人画の融合も可能となり、浅絳山水と工筆重彩─いずれにも優れていました。倣古の作品であっても、多様な伝統的画風を取り入れつつ、当時の画壇に新鮮な驚きを与えることができたのです。こちらのコーナーには、張大千と古代の大家の作品を並べて展示し、その芸術の淵源をご覧いただきながら、画風の発展において大切な役割を果たした「模写」の重要性をうかがい、張大千が描いた様々な題材に見られる創造的成果を明らかにします。こちらに展示する董源の「江堤晚景」は、1945年から大風堂に収蔵され、張大千に大きな影響を与えました。また、張大千の「倣沈周蜀葵図」は、沈周を模写した数少ない作品の一つです。
民国 張大千 倣沈周蜀葵図
- 形式:軸
- サイズ:134x37 cm
この作品は1929年に題された。その時、張大千は大連湾に旅行中だったが、寒さのあまり眠ることができず、この絵を臨模し原題を入れた。張大千が模写した作品は、無錫博物館所蔵「沈周書端陽詞‧張宏補蜀葵図」である可能性もあるが、構図が異なっている。自由に筆を揮って描かれたタチアオイの線は止めや転折が多く、墨色は美しく鮮やかで、速写ならではの味わいがある。張大千の作品中、沈周の模写はかなり珍しい。「臨写」としているが、原作をおおまかに写しただけなのかもしれない。張大千は数々の名家を模写したが、作品ごとに異なる点を取り入れていたとも思われる。