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名家の名作

 緙絲刺繍の織物や刺繍技術の鍛錬には長い時間が必要とされます。それでこそ卓越した芸術作品を生み出すことができるのです。しかし、工芸家として名を残せる人物は少なく、芸術家として世に知られる作家はごく僅かしかいません。現在、作品に残された作家名が確認できるのは、沈子蕃や朱克柔など、宋代工芸界の名匠たちです。明代は顧名世一族の「顧繍」が最も有名です。このほか、多数ある大作にも作家の款印は残されていませんが、その時代ならではの風格や芸術性を代表するに足るもので、名家による名作の典範とされています。

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    • 元 緙絲吉祥喜金剛 軸
    • 元 緙絲吉祥喜金剛 軸
    元 緙絲吉祥喜金剛 軸

    元 緙絲吉祥喜金剛 軸

     吉祥喜金剛は密教の五大金剛の一つで、密教の行者を守護する本尊である。上半身裸で肌の色は濃紺、腰に虎皮の裙をつけ、金剛長杖を持ち、降魔人頭の瓔珞を身に付けている。八面十六臂で足は4本あり、左足に重心を置いて4匹の魔波旬を踏みつけ、蓮華座に立っている。織り目も緻密で、元代緙絲仏像の名品である。

     この作品は清朝宮廷で改装されている。原作はおそらく長方形のタンカで、破損があったことから収蔵後に裁断されて現在の形になったと思われる。南宋以来、チベットと西夏は杭州などの地に緙繡仏像を特注していた。古樸な味わいがあり、光背の造形は元代後期の仏経版画と関わりがあることから、14世紀の工芸品と推測できる。

    • 伝 宋 緙繡開泰図 軸
    伝 宋 緙繡開泰図 軸

    宋 緙繡開泰図 軸

     原題は「緙繡開泰図」だが、技法を仔細に見ると緙絲とは異なっており、一般に緙織に見られる鋸の歯状の隙間とは違い、「纏紗」という技法が用いられている。全体が主に纏紗で刺繍されているが、刺繍の質感もよく、多大な労力を費やして丹念に刺繍されている上、サイズも非常に大きく、かなり特殊な作品である。

     モンゴルの衣服をまとった子どもが山羊に乗り、後ろを振り返っている。傍らにいる二人の子どもと8頭の山羊で、「九羊開泰」という吉祥語の語呂合わせになっており、メトロポリタン美術館(米国)所蔵の「迎春図」と一揃いになる。作中の様々な植物の造形は華やかで美しく、刺繍の技術も傑出している。元から明代にかけての佳作であり、元朝皇室の織造と関連があるものかもしれない。

    • 宋 緙絲 仙山楼閣 冊
    宋 緙絲 仙山楼閣 冊

    宋 緙絲 仙山楼閣 冊

     緙織の青緑山水楼閣。前景は山石が重なり、珍しい草花や樹木で覆われ、その間を動き回る猿と、舞い飛ぶ鳥の姿が見える。幽谷の山頂に聳え立つ楼閣、空は様々な形の雲で埋め尽くされ、真っ白な鶴と色鮮やかな鳳が飛んでおり、清らかで脱俗的な雰囲気に満ちている。構図は対称的で、物象はやや図案化されている。様々な緙絲技法が用いられており、線の転折箇所の表現も滑らかで生き生きとしている。

    緙絲の用途は観賞だけではない。もう一つの大切な用途が書画の包首で、手巻の巻頭裏面に使われた。書画はその種類によって、包首に使われる織物にも違いがある。緙絲仙山楼閣もその内の一種で、本作から当時の情況が推察できる。

    • 宋 朱克柔 緙絲鶺鴒 冊
    宋 朱克柔 緙絲鶺鴒 冊

    宋 朱克柔 緙絲鶺鴒 冊

     淡い褐色の地に1羽のセキレイがいて、川の中ほどにある岩に立ち、岩の隙間に隠れているエビをじっと見つめている。空には蝶が舞っている。「長短戧」という杼を使った織り方で伸展の変化をつけ、色をぼかしたような効果を生み出し、セキレイの羽色のグラデーションやエビの腹部の透明なつやが見事に表現されている。

     本作には「朱克柔印」という名が織り込まれている。「朱克柔」はおそらく朱鋼のことで、明人による題識によれば、華亭(現在の上海市松江区)の人で、南宋高宗(在位期間1127-1162)の頃に織工として名を知られた女性である。そのため、宋代の緙絲の女流名家として後人に尊ばれたが、朱克柔の伝世作は見た目がそれぞれ異なり、風格も全く違う。おそらく名を借りただけの別人の作だろう。

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