仏教と道教の人物
緙繍の制作工程は緻密で複雑を極めます。その技法は芸術性が高く、織工と刺繍職人は熟練した高度な技術や、芸術面での素養も必要とされます。また、艶やかな絹糸の配線にも工夫が凝らしてあり、色鮮やかで美しいことから、緙繍作品は広く愛されています。南宋時代になると、仏教と道教も次第に緙繍の題材として扱われるようになりました。宋代は仏像と菩薩像の世俗化が進み、より親しみやすい存在になっていました。この時代の仏像は深い落ち着きと荘厳な雰囲気を湛えつつ、人間的な情感に満ちており、柔和な美しさと典雅な趣があります。そのため、仏教の人物を題材とした作品の内容は多岐に渡り、盛大な説法図から「八仙拱寿」などの世俗的な題材まで、いずれの作品も篤い信仰心が明らかに示されているだけでなく、開運招福や家内安全祈願も兼ねており、誕生祝いや贈り物にふさわしい品でした。
清 繡畢沅書御製十六羅漢賛 冊
乾隆帝(1736-1795)は南巡で訪れた杭州西湖の聖因寺で貫休十六羅漢像を見てからというもの、各種の資料を研究しつつ、羅漢像の順序と名称について改めて考訂した。それ以降、それが基本的な素材とされ、様々な材質で複製品が作られた。本冊もまた織物や刺繍などの技法を用いて複製されたもので、人物がまとった衣服のひだや頭髪、ひげなどを「平繡」した後、金糸と色糸を使った「盤繡」で仕上げてあり、技法にも工夫が凝らされている。人物の顔立ちや樹木の幹、岩石を刺繍してから、色を使って絵が描き添えられている。この鮮麗な色遣いは視覚的効果が高い。
対幅の篆書が畢沅の書である。畢沅(1730-1797)は乾隆年間の進士で、官は湖広総督に至った。