故事の人物
明代から清代にかけては、緙繍の多くが工作坊(工房)で制作されていました。市場の需要に応じて、驚きに満ちた伝奇物語や感動的な戯曲など、物語の登場人物を題材とした作品が大量に出現しました。図案も祝い事や長寿、吉祥を表したものが多く、それらを融合させて、印象的な場面が再現されています。この度の特別展では、「謝安賭墅」や「老子騎牛」、「呂布戯貂蝉」などを題材とした作品を展示します。皆さんもよくご存知の物語が色とりどりの鮮やかな緙絲刺繍で表現されており、その見事な描写に引き込まれます。
無款 呂布戯貂蝉八角平金納紗
三国演義に登場する貂蝉の美人計が刺繍で表現されている。後漢末に董卓(? -192)が天子を捕らえ、政務に深く関与するようになったため、司徒の王允(137-192)は美女の貂蝉を利用し、義理の父子だった董卓と呂布を反目させ、呂布に董卓を殺害させることに成功した。この作品には呂布と貂蝉が鳳儀亭で密会する場面が刺繍で描かれている。
本作は納紗平金という技法が用いられている。「納紗」とは、蘇繍の技法の一つで、「納」とは、紗か麻に隙間なく縫い目を並べ、色糸でびっしりと模様を刺繍することを意味する。模様の周りに紗の地が残され、針目は規則正しく整っている。衣服のひだや額縁のように周囲を飾る花々は「平金」で刺繍されている。刺繍部分は艶やかな光沢を放ち、全体にバランスよく整っており、輝かしく華やかで装飾性の高い作品である。吉星福伉儷寄贈。