実景からの啓示
新名所を描くのは、新しい絵図の様式を創造する契機にもなります。20世紀前半の「古法写生」という考えの流れを受け、傅狷夫(1910-2007)は台湾の自然の風景から如何にして新しい山水の筆法を創出するかを思索し、「裂罅皴」と「点漬法」を創出しました。古典山水画が私たちの自然に対する見方を定型化するように、実景もまた画家たちの想像とともに飛び立てるのです。すでに倒れてしまった渓頭神木は、江兆申(1925-1996)の往年の夢を呼び覚ましてくれました。もともと山水画は実景から生まれたもので、実景は山水画の構図や筆法により転化されたものです。この二者の間には、「万巻の書を読み、万里の道を行く」という画家の修練を通して、激盪を繰り返す中で新たな対話が絶えず生まれ続けているのです。
-
民国 江兆申 洞中夢遊
- 形式:單片
- サイズ:24.8x33.7 cm
江兆申(1925-1996)、字は茮原。安徽省黄山市歙県出身。1949年来台。元国立故宮博物院副院長。著名な書画家であり篆刻家、芸術史研究者。
この作品に年款はない。神木のうろが、昔、夢に見た木とそっくりだったので、渓頭の神木が夢に現れたのかもしれないと思ったという。1991年に退職してからは南投で暮らし、南投で目にしたものを題材にすることが多かった。この作品は実景と夢の中の風景を混ぜ合わせてあり、「それが真実なのか夢なのかを語る必要はない」が、実景山水画のように見える。実景と想像による風景は往々にして重なり、判別が難しい。