時局下の景勝
1949年以降、両岸三地が分立した政治情勢の下、実景山水画にそれまでとは異なる発展がありました。中共が建国後、20世紀中葉に「新国画」の概念が打ち出され、内容的には現実感を反映し、形式上は写実に近くあるべきとの主張がなされると、祖国を讃えるような内容の実景山水画が次第に数を増し、人民への奉仕という意味を持つようになりました。そして、国民政府に従って台湾に移住した画家たちは台湾各地を回って、台湾の風景を題材としました。その頃、中部横貫公路の修繕工事や阿里山の観光化が進められたほか、難所として知られる蘇花公路など、台湾の山海の絶景も山水画に描かれるようになったのです。返還以前の香港は両岸の折衝役を務め、香港を題材に作画する流寓の画家らも少なくありませんでした。緑滴る山々に囲まれた高層ビル群は、金融の要地とされる香港の象徴であり、香港特有の山水画になりました。
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民国 林建同 獅子山下
- 形式:軸
- サイズ:70x44 cm
- 林紀凱氏、林紀穂氏寄贈
林建同(1911-1994)、広東省江門市新会出身。1949年以降は香港に定住。香港の著名な画家で美術教育者。
1990年に制作された本作には、香港九龍半島の獅子山が描かれている。獅子の頭は西を向いており、頂上まで登ると、九龍と香港島が一望できる。1970年代から1990年代にかけて放送された「獅子山の下で」というテレビドラマでは、各地から香港にやって来た人々が逆境にも負けず、懸命に生きる姿が描写され、この「獅子山精神」が香港人の「本土意識」の象徴となった。その精神は近年香港で行われている社会運動によって甦った。