風雅に心を寄せる
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明 王紱 淇渭図
故畫390
紙本
重要古物王紱(1362-1416)、字は孟端、明代の墨竹画の名家。作品名の「淇渭」は、この絵を贈られた梁潜(1356-1418)の称賛の言葉から取られている。この墨竹を見ていると、竹が生い茂る渭川(現在の渭河、源流点は甘肅省)と淇園(現在の河南省淇県付近)に身を置いているかのように思えると、梁潜は記している。
この絵には垂れ下がった竹の枝が描かれている。その姿はしなやかで美しく、ほとんどの枝は薄い墨で、葉は濃い墨で描かれており、疎密にも趣がある。一枝のみだが、豊かに生い茂る枝葉が暗に示されている。竹は君子の気概や不屈の精神の象徴とされるため、文人たちが贈り合う画作にふさわしい題材とされた。
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明 丁雲鵬 東山図
故畫2292
紙本この絵には、東晋の名士謝安(320-385)が山水に思いを寄せて、東山に遊んだ出来事が描かれている。謝安は恬淡とした人物で、役人生活を好まず、退官して東山(現在の浙江省上虞区)に隠居した。朝廷から招聘される度にやんわりと断っていたが、最終的には出仕することになった。謝安の人柄や気風は人々に好まれ、明代になると、この画題もまた人気を博すようになった。この絵は丁雲鵬(1547頃-1628以降)が州郡官長のために描いた作品である。
前景には、杖を突きながら歩む一人の文士がおり、その後ろに巻物を抱えた童子が従っている。この文士が謝安なのだろう。全体に緻密に描き込まれており、険しい山々が重なり連なる中に家屋や旅人の姿も見える。細緻かつ律動感のある線で山体の質感が表現されており、画風は元代の画家王蒙(1308-1385)から大きな影響を受けている。
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明 陳洪綬 玩菊図
故畫649
紙本
重要古物陳洪綬(1599頃-1652)、字は章侯、自号は老蓮、悔遅など。浙江諸暨の人。人物画と花鳥画を得意とした。人物の造形に誇張された特異な表現が見られ、変形のおもしろさがある。
この絵には、一人の高士が瘤だらけの木に腰掛け、岩に置いた花瓶の菊と向かい合っている姿が描かれている。人物の衣服のひだは力のこもった線で丁寧に描いてある。岩の筆致は荒々しいが自然に表現されており、様々な筆法に精通していることが見て取れる。高士と菊は陶淵明(365頃-427)を連想させ、君子の品格や隠遁生活への憧れが表現されている。題識を見ると、この絵は宋代の李唐(1066-1150)が「玩菊図」という絵を友人に贈った出来事を模倣したものだと記してあり、高古の意が込められている。