傅狷夫は実景描写の新しい技法を研究する一方で、水墨によるイメージの創造にも関心を寄せ、とりわけ墨の用い方に得るものがありました。水墨の交わりや透明感のある視覚効果は米芾(1051-1107)が描いた雲山のイメージの理解から生じたものです。この度の特別展で展示する「神契海嶽」は墨が調和的に溶け合い、米点の形からも脱却して、「皴」の代わりに「染」が徐々に増えています。よく知られている傅家山水とはまた別の趣があります。
「秋林流泉」という作品は渓流に波紋が描かれており、この分野の作品の過渡期であるのが見て取れます。同時期の作品に「老松風湍」など、詳細に描写された作品のほか、「万竿煙雨」や「秋江双帆」、「川東所見」など、朦朧としたもやが立ち込める風景を描いた作品もあり、物象そのものの形の写生からはほぼ脱却し、抽象的な意味合いが感じられます。「暮雨泊舟」は大筆を大胆に揮い、暗鬱とした空の色と湿った山石が巧みに捉えられており、艶やかで透明感のある墨色、画面の奥行きの深さなど、最も精彩な表現が見られます。