盛年期を迎えると、台湾の山水の風景に大きく啓発されて、傅狷夫の画風は再び変化します。1949年に上海から船で台湾にやって着た傅狷夫は、この時初めて「水深於黛、浪起如山」(深く青黒い海、山のように盛り上がる波)と形容した大海原を目にします。その後、しばしば宜蘭県の大里へ行っては波の動きを観察し、逆巻く波のうねりを「点漬法」で表現するに至りました。このほか、横貫公路には3度足を運び、阿里山にも2度登り、「裂罅皴」で描く断崖絶壁、「染漬法」による壮大な雲海を創出しました。これにより水墨画による表現の可能性が一新されたのです。傅狷夫が提起した「写生」と、大自然の躍動する光陰を伝統的な筆墨で捉えた画法は、水墨画変革の道を指し示すことにもなり、その足跡を辿った者は数知れず、極めて大きな影響を与えました。 この度の特別展では、台湾の代表的な名勝の風景画のほか、山々に囲まれた地方の景色や、素朴な農村を描いた作品も展示いたします。このほか、「雲煙窟」や「海浜一角」などは、実際の風景を描いた作品ではありませんが、台湾の風景を元に創作された絵です。「雲水双絶、裂罅無儔」という賛辞はこれらの作品に端を発しています。