西山逸墨
生来聡明だった溥心畬は幼少の頃から厳格な伝統的教育を受けていました。それに加えて、常日頃から多数の収蔵品を鑑賞していたことが、その筆墨の基調となるものに秀麗かつ典雅な味わいを与えたのでしょう。戯れる猿や幼心の溢れる絵、山水や森林など、内容はそれぞれ異なりますが、いずれの作品も清らかで脱俗的な雰囲気があり、熟練した用筆からは絵画の精髄が伝わってきます。溥心畬の書法は帖学とその表現を中心としていますが、点画からは卓抜した力強さが溢れ、柔弱さは微塵もなく、帖学に時代的な意義を与えつつ、全く新しい生命を吹き込んだのです。総体的に見ると、溥心畬の筆墨から自然と流れ出る清らかで洗練された雰囲気や脱俗的な気質─その境地に近づくのは他の名家にとっても容易なことではなく、溥心畬は近代の伝統派書画を代表する人物となったのです。
- 民国 溥儒 寒玉堂論画
- 展41、42、46、47
- 額装 紙本 縦37.4 cm 横43.4 cm
- 寒玉堂寄託
溥儒は「用筆は中鋒を用いるべき」とし、基本的な用筆を直接中鋒に調整している。筆先を線の中ほどに置き、その位置をそのまま維持する運筆法である。このような線は豊かで艶やかになりやすく、視覚的にも丸く温潤な表現となり、鑑賞すべきポイントもより多彩なものとなる。「画は書より出でて、二つのものではあらず」という言に関しては、文人画への明快な識見だと言え、「書法入画」(書法の技法を絵画に取り入れる)ための重要な観点でもある。個々の物象に関しても、描写法とその道理について詳細に記しており、非常に価値の高い作品である。