感知世界と物理世界の対話
前述の2項から視覚の働きには各種パターンがあることがわかり、知覚が認識する世界が3次元であることもわかりました。つまり、3次元の立体的表現と2次元の平面的表現の玉器を目にした時、大脳はどちらもごく自然で調和的なものとして捉えるのです。しかし、注意深く見てみれば、捻れて変形した立体的な形であれ、単体の平面的な形であれ、必然的にこれらの芸術様式の奇怪さに気づき、こうした生き物が現実世界には存在し得ないことを理解するのです。
しかし、アインシュタインが1919年に証明した広義の相対論を参考にして視点を換えてみると、知覚的世界は大脳の錯覚から生じた虚構でしかないことがわかります。現実の物理的世界は時間の流れる速度も一定しておらず、空間の歪んだ4次元空間なのです。つまり、私たちの知覚が受け入れがたい、捻れて変形した神獣や、単体の平面化された神獣は、現実の物理世界の形体により近いのかもしれません。
まぼろしのような錯視芸術を生み出すために、戦国時代から漢代にかけて制作された玉器には、知覚的には理解しがたいデザインが多用されています。ですが、動態の錯覚を求める芸術的視点からそれらを見れば、いずれも想像力と創造力溢れる作品となっています。また、その中に含まれる常識ではあり得ない特殊なデザインを仔細に観察すれば、その他の科学理論の縁起を理解することもできるでしょう。