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展示概要

戦国時代から漢代(475BCE-220CE)にかけては、玉器史上ほかに類を見ない錯視芸術の時代でした。制作者はごく小さな空間に多種多様な龍や獣の造形を作り出しました。それらの生き物たちは微動だにしませんが、今にも動き出しそうな錯覚を覚えます。私たちの視覚を現実と幻想の狭間へと導く、これほどの変化に富んだ姿かたちに驚嘆させられます。「うつつとまぼろしの間」と題した本特別展では、視覚の変化を通して、玉器創作の技巧と錯覚が生じる視覚面の原因を明らかにします。

この度の特別展では、戦国時代から漢代の玉器212点(清朝宮廷旧蔵品114点、新蔵品98点)を展示します。この時代の玉器の物語を説明するにふさわしい、この年代ならではの煌びやかな芸術性と美感を備えた、代表的な作品揃いです。戦国時代から漢代にかけて製作された玉器が、動態の錯覚を求めた点は一致しており、曲がりくねった身体にも共通の表現が見られますが、錯視の効果はそれぞれ異なります。例えば、戦国時代の玉龍には、不揃いな足の爪や、動静が交錯する平面的な表現が見られます。漢代の玉獣は身体の捻じ曲がった、緊緩異なる立体的な形となっています。本特別展は、これらの特色を明らかにするために、4章に分けてご覧いただきます。

動感溢れる玉器の時代

「動感溢れる玉器の時代」では、戦国時代と漢代の各様式の玉器を展示します。様々な造形や様式が視覚に与える印象やバランス、動感への影響を解説し、同系統の作品ごとに蛇身と獣身の違いを弁別します。

戦国時代から漢代の玉器に見られる芸術様式

第2章の「戦国時代から漢代の玉器に見られる芸術様式」では、「蛇」をモチーフにしたデザインを好んだ戦国玉器が、それゆえに伸び広がり、平面的になっていった様子が、展示作品を通しておわかりいただけるでしょう。それに対して漢代の玉器は傾向として「獣身」様式が多く、立体的で捩れたようなデザイン上の特徴が見られます。

感知世界と物理世界の対話

第3章は「感知世界と物理世界の対話」です。1919年に証明された一般相対性理論によれば、視覚が認識した現実は錯覚である可能性があり、視覚が捉えた錯覚も時には現実の物理世界により近いとされています。この観点から、漢代の様々な玉神獣の捻じ曲がり、変形させられた体躯を見ると、現実にはあり得ない錯覚に思えますが、実は現実世界により近い姿なのかもしれません。

人を魅了してやまない錯視芸術

第4章の「人を魅了してやまない錯視芸術」では、戦国時代と漢代の制作者がどのようにしてごくシンプルな視覚原理を用いて、蛇身と獣身という異なる原型から、種々の様式の個性的な傑作を生み出したかを探求します。

本特別展は、「観る者」と「創る者」の視点から構成されており、「人」を主軸とした展示となっています。玉器制作者の創意を改めて探求することを目的としており、これまで疎かにされていた玉器の錯視芸術を、ご自身の目で見て理解していただければと思います。また、ご観覧の皆さまが時空を超えて、玉器のよき友となれるよう期待しています。展示の最後に陳列されている玉器数点は、作品の創意を分析するのにご利用ください。

このほか、300陳列室では、科学的な視点から「目視」と「実際の形状」の差異についての展示を行います。東京大学名誉教授であり、明治大学特認教授でもある杉原厚吉氏による研究の成果をご覧ください。これらの研究は公式で表したものではなく、ユニークな模型や図像に転化されており、2千年前の錯視芸術と互いに呼応しています。

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