郎世寧(ジュゼッペ・カスティリオーネ/Giuseppe Castiglione)が雍正時代に制作した絵画には十分な成果が見られます。「百駿図」はこの時期を代表するに足る大作だと言え、山水の風景と岸辺で放牧中の駿馬百頭が長巻に描かれています。画中の駿馬は姿形も動きもそれぞれ違い、静かに憩う馬もいれば、活発に駆け回っている馬もいて、駿馬百頭の変化に富んだ姿が見られます。
巻頭は画面の上下を貫くように描かれた2株の松から始まります。長さ8m近くある横幅の画面が巧みに生かされ、平坦な地面とほぼ同じ高さに視点が置かれています。平原での放牧風景、木々の間に散らばる馬、川岸で水浴びをする馬、川を渡らされる馬などの段落に分けられ、最後は遥か遠くに広がる山河の景色で終わります。全体に雄壮広大な雰囲気のある放牧風景で構成されています。清朝宮廷内務府档案には、雍正2年(1724)3月に、郎世寧が百駿図一巻の制作を命じられたとの記録があり、制作の経緯を示す文献の一つとして挙げられます。宮廷画院での作画はかなり複雑な過程を経なければならず、まず先に草稿を皇帝のご覧に入れ、了承を得てから作画が始められました。この度の特別展では、米国メトロポリタン博物館所蔵の「百駿図稿本」(草稿)も合わせて展示されます。この稿本の構図は本院所蔵の「百駿図」と等しく、清代宮廷画院の作画手順やシステムを理解する上で、最良の実例としてご覧いただけます。