イタリアのミラノ出身の郎世寧(ジ ュゼッペ・カスティリオーネ/Giuseppe Castiglione,1688-1766)は幼い頃から絵画を学んでいました。19歳の時にジェノヴァでイエズス会士となり、1709年にポルトガルのリスボンに移りました。その後、1714年にローマ教皇庁により福音伝道者として海外に派遣され、1715年(康熙54年)に中国に到着しました。その年の暮れに北京を訪れた郎世寧は、画家として清朝宮廷に奉職することとなり、それから乾隆31年(1766)に病死するまで、51年もの長きに渡って内廷に仕えました。生前、郎世寧は「奉宸苑卿」という官職に就いていましたが、死後に乾隆帝から恩賞として「侍郎」という官位を追贈されました。
郎世寧が康熙朝(1662-1722)に仕えていた頃に描いた作品は一つも残されていませんが、雍正元年(1723)に雍正帝即位に際して描いた「聚瑞図」が皇帝の目に留まり、高く評価されました。雍正6年(1728)には「百駿図」と題した長巻の大作を完成させました。これらの作品全てに西洋画の技法が用いられており、写生と一点透視図法を用いた描写に重きが置かれていますが、中国の伝統的な美意識と「祥瑞思想」(植物や動物などに吉祥の意味を重ね、美術品のモチーフとして象徴的に用いた)が表現されています。乾隆時代(1736-1795)、郎世寧は中国伝統の紙や絹布、顔料、毛筆を使い、如意館の書画家とも協力して「中西融合」とも言える新しい院体画を創造しました。題材は皇帝と皇后の肖像、美しい花々などの植物、鳥類や動物、重要な式典など多岐に渡ります。絵画だけではなく、円明園にあった洋館の室内装飾や磁器の紋様、「得勝図」の銅版画稿なども手がけました。
本年は郎世寧来華300周年、国立故宮博物院開院90周年記念にあたります。本院所蔵作品のほか、北京故宮博物院とメトロポリタン美術館、ジェノヴァの養老院Pio Istituto Martinezから借り受けた11点も合わせて展示いたします。この度の特別展を通して、郎世寧の絵画とその発展の軌跡、並びに18世紀中西文化交流史上におけるその成果と貢献をご覧いただきます。