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技芸の妙

緙絲や刺繍、漆箋、木版画などの作品には画稿がありますが、材質や製作技法の違いによって、美術的表現もまた異なります。緙絲と刺繍は糸の太さや光沢、織り方、運針の粗密などの違いによって、よりよい作品となります。漆箋は漆の研磨や濃度、厚さによって異なります。花鳥を描く際に、運筆が緩慢で掠れていれば、古拙な趣がかもされます。清代光緒年間に出版された『文美詩箋齋譜』は套印法(多色刷り)で印刷されました。刷りの際には、ずれのないよう塊板(版木)を正確に重ねなければなりません。花卉のグラデーションやぼかしなど、原画の精神まで見事に表現され、絵画にかなり近い効果が生まれます。

清漆箋画冊(New Window)

清漆箋画冊

「漆箋」とは、漆を平らに塗った絹布に彩色画を描いたものである。瑟や奩、盤、屏風などの器物に描かれた古代の漆絵は、刻漆や堆漆、彩絵などの技法が用いられている。この冊は絹布に黒い漆を直接平塗りし、少量の油か漆と顔料を混ぜたものを塗り重ねてある。器物の漆絵とは描き方が違い、伝統的絵画とも異なる。

「漆箋画冊」は十四開あるが、この度の特別展ではその内の五幅が展示される。この作品の技法は変化に富んでおり、花弁は針で刻まれ、葉脈は墨で描かれている。翻る花弁と葉、羽毛のグラデーションはぼかしで表現されている。卓越した技法と独創性によって生気溢れる作品となっている。

十竹齋書画譜-翎毛譜(New Window)

十竹齋書画譜-翎毛譜

この作品は『翎毛譜』に収録されている。明代の胡正言出版『十竹齋画画譜』所収の画譜8種の一つである。胡正言は画家に作品を依頼し、それを下絵にして「餖版」(木版印刷の一種)という技法で印刷した。「餖版」はまず色ごとに分けて木板を作り、木板に紙を合わせて順に刷り重ねる。木板の彫り跡によって浮き彫りのような効果を生む「拱花」という技法も用いられている。これが多色刷りである。『翎毛譜』の絵は全て違う種類の鳥が描かれている。ハチを捕らえようとする山雀(アオガラ)の様子、折れ曲がったような枯藤、ハチを銜えようとかまえる山雀の動きなど、多色刷りで絵画のような画意が表現されている。