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生命感溢れる花鳥

「花鳥」には多種多様な表現技法があります。まずは古今の名画の模写が挙げられますが、このほかに、自然を仔細に観察して植物や鳥類の特徴や構造、習性をよく理解した上で、丁寧なタッチで花鳥の輪郭を取り、それにふさわしい着色を施して、美しい花鳥の様々な姿を描いた作品があります。こうした写生の観念は緙絲(つづれ織り)と刺繍にも見られます。この三幅に描かれた斑鳩は動態であれ静態であれ、姿形のみならず、その精神までも見事に表現されています。葉の色の濃淡や明暗、花弁の表と裏の違い、花葉の質感や筋なども丹念に描写され、本物のように生き生きとしています。画面という限られたスペースに生気が満ち溢れており、正しく「以形写神、形神兼備」を代表する作品だと言えます。

宋沈子蕃緙絲花鳥(New Window)

宋沈子蕃緙絲花鳥

宋繡梅竹山禽図(New Window)

宋繡梅竹山禽図

宋人竹石鳩子図(New Window)

宋人竹石鳩子図

この三幅は全て斑鳩(ハトの仲間)を主題としている。枝にとまり羽根を休める斑鳩、翼を広げて飛び回る斑鳩など、様々な姿が描かれている。「宋人 竹石鳩子」の筆墨は力強く、霜が降りた郊外でイバラにとまる斑鳩の様子が描かれている。その表情や動きは実に生き生きとしている。

「宋繡梅竹山禽図」は梅の老木と青々とした竹が刺繍で表現されている。三組のつがいが互いに見つめ合っている。精巧な刺繍は趣深くもある。「宋沈子蕃緙絲花鳥」には花をつけた桃の枝と寄り添って暖め合う珠頸斑鳩(カノコバト)が精巧な織りで表現されている。この緙絲と刺繍の作品は構図や色遣いが「宋人竹石鳩子図」の意趣によく似ている。美しく整った写実的表現でありながら風情があり、「観物之生」を代表する作品だと言える。