花見の楽しみ
南宋では花見や詠花、花の品評などが流行しました。北宋宮廷と文人らが花々を詩に詠んだ風潮がそのまま継承され、画家たちも詩人のように物象を細部まで丁寧に描写する能力を有しており、花々の姿形や瑞々しさが見事に表現されています。
- 宋 艾宣 写生罌粟
艾宣、金陵(現在の江蘇省南京市)の人。花竹、翎毛の絵を得意とした。伝世作品は極めて少ない。色鮮やかなケシは夏に花開く。この絵は細筆で枝葉の輪郭が描いてあり、花は白粉とその他の顔料で着色され、深みのある濃厚な色合いとなっている。
対幅は寧宗后(在位期間:1195-1224)と楊皇后(1162-1233)による題詩で、「御所」印が押してある。楊皇后の書は、繊細な文字から豊潤なものへと転じた晩年の書風が見られる。詩句にある「長春殿」とは、北宋真宗の偏殿の名称である。南宋趙升の『朝野類要』に本朝の殿名が記されており、「宴対蕃使則長春殿」と触れていることから、南宋にもこの殿名があったことが知れる。この作品は詩画が対幅になっており、詩文は一枝に二つの花がついた満開のケシをもって、皇家の瑞気が強調されている。絵は工筆による着色で、太陽の如く燦然と輝く鮮やかなケシが描かれている。 - 宋 林椿 橙黄橘緑
- 故畫001257-2
- 國寶
南宋宮廷では、「橙橘」は花卉と同様に品評や観賞の対象だった。周密の『武林旧事』に禁中での「清燕殿綴金亭での橙橘の観賞」が記されている。南宋では高宗以来、北宋元祐年間の文学を尊び、蘇軾(1137-1101)などの詩文が広く好まれ、重んじられていた。「一年好処君須記、正是橙黄橘緑時」は幾度読んでも味わい深い詩句である。
画面左の縁に「林椿」の楷書款がある。小幅の扇面の左側から斜めに伸びた枝に丸々とした橙橘(柑橘系の果実)がぶら下がっている。橙果は着色に色点を加えて、ほぼ黄金色となった実の瑞々しさが描写されている。橘果は深浅異なる緑色の墨点を用いており、極めて優れた写生の技法によって蘇軾の詩意が表現されている。 - 宋 馬麟 暗香疏影
- 国宝
本作は無款だが、旧籤題には「馬麟暗香疏影」と記されている。画中の白梅の萼は石緑と胭脂で着色してあり、范成大(1126-1193)の『梅譜』に記載がある「緑萼梅」の一文「呉下又有一種、萼亦微緑、四辺猶浅絳、亦自難得。」と一致する。この絵は北宋の詩人林逋(968-1028)の詩句「疏影横斜水清浅、暗香浮動月黄昏」の詩意が表現されている。曲がった梅の枝とまばらに生える竹が互いに映えている。右から左へ斜めに伸びる枝の曲がり具合も繊細で美しく、背景は空白で何一つ描かれていない。梅の枝と竹の葉が水面に逆さまに映り、白いつぼみと緑色の萼もうっすらと見える。月を描くことなく月下の梅が表現されており、清雅な趣もまた格別である。