摺扇の用紙には泥金箋や灑金箋、素箋、色箋などがあり、それぞれ違った美しさがあります。扇骨には竹や木、象牙、漆など、いろいろな素材が使われます。作品としては小ぶりなものですが、画家たちは紙と扇骨の組み合わせに工夫を凝らしました。丁雲鵬(1547-1628以降)や呉彬(1573頃-1620頃に活動)、陳洪綬(1599-1652)など、明代晩期の画家たちは自身の個性的な表現も取り入れており、技術的にも見事な摺扇が見られます。
明 丁雲鵬 画後赤壁 姜貞吉 書後赤壁賦
「画後赤壁」と「画前赤壁」は同サイズで、どちらにも湘妃竹の扇骨が使われている。「画赤壁賦」と「後赤壁賦」の二つに分けられているが、あらかじめそのようにデザインされたか、元は両面だった扇を清朝宮廷が表装し直したものなのだろう。
酒を携えた蘇軾が赤壁を再訪した場面が扇面に描かれている。「後赤壁賦」には衣をからげて岩に登り、口笛を吹く場面が描写されている。蘇軾はその後また舟に乗って川の流れにまかせて進んだ。夜が更けると、物寂しい雰囲気にふさわしく、東から1羽の鶴が川を横切って飛んできた。文字は原文と同じ順に記されている。丁雲鵬は扇の形に合わせ、2段落の場面をまとめて描いている。画家の創意工夫が見られるだけでなく、当時の鑑賞者が赤壁という題材に親しんでいたこともわかる。