叙事画
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明 鄭重 倣王蒙葛洪移居図
鄭重(1610-1648に活動)、字は重生、号は風道人、嬾重など。丁雲鵬(1547-1628以降)の弟子、仏画と山水小景を得意とした。
この作品には、道士葛洪(283-343)が羅浮山に移り住み、煉丹修道に励んだ故事が描かれている。画面には連なり重なる山々、山中の小道、流れ下る川、湾曲した建物が見える。山間は雲霧に覆われており、天高く舞い飛ぶ鶴など、仙境の神秘的な雰囲気に満ちている。用筆は王蒙(1308-1385)の牛毛皴を模倣しており、ごく細い線を用いた緻密な描写、明快だが典雅な着色など、筆墨の趣と装飾性を備えており、「宋と元の名家を模倣することにより、その趣を詳細に研究している」という後人の評価にも合致する。
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民国 溥儒 太平広記故事
溥儒(1896-1963)、字は心畬、清朝最後の皇帝溥儀(1906-1967)の従兄弟にあたり、詩と書法、絵画でも名を知られる。
978年に編纂された『太平広記』には500余りの故事が収録されている。溥儒の『太平広記故事』冊は26開あり、各開に一つの故事が描かれている。ごく小さな画面に物語のクライマックスが濃縮され、画風には清逸な趣があり、用筆にも清麗な雰囲気が漂う。また、画面上部に書かれた原文の書法も脱俗的で瀟洒な味わいがある。全ての絵に文が添えてあり、奇怪なもの、ユーモラスなもの、風刺、警世など、書斎で談笑しながら誰かと一緒に絵を見ているようで、文人らしさが感じられる。今回は「焼龍」、「姚蕭品」、「海畔石亀」、「僧智通」の4開を展示する。
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民国 張大千 摹莫高窟鹿王本生図
張大千(1899-1983)、名は爰、斎号は大風堂。近代の書画家で、溌墨・溌彩の画風で世界的に知られる。
本生譚(ジャータカ)とは、釈迦が輪廻し成仏する前にも衆生を教化していたという、釈迦の前世の物語を指す。この巻は敦煌研究院編257号窟の模写で、鹿王が鹿の群れを救い、国王を感化した故事が描かれている。原作は敦煌唯一の鹿王の壁画で、物語上の制限を突破し、物語のクライマックス─国王に対峙する鹿王を画面中央に置くなど、壁画の構図が石窟の空間に合うように工夫された点が見て取れる。すでに1500年もの歳月を経ているので変色も激しいが、幸いにも模写によって当時の様子が想像できる。張大千氏寄贈。