挿花
古くから花と花瓶は一般庶民の暮らしに趣を添えてくれる室内装飾品でした。花瓶に花を生け、そこかしこに気を配りつつ整えます。磁瓶に花を生ければ当世風に、銅瓶に生ければ古風になります。盆や筒、籃、盤もまた最良の花器で、花と器の様々な組み合わせはそれぞれに違った美しさがあり、自然に情趣がかもし出されます。
元 14世紀 龍泉窯 飛青磁 花生
- 大阪市立東洋陶磁美術館所蔵(住友グループ寄贈/安宅コレクション)
- 日本国宝
- 高さ27.4cm
- 最大径14.6cm
元代龍泉窯の青磁玉壷春瓶。おそらく14世紀に元朝との貿易によって日本にもたらされたもの。日本人は花器を「花生」または「花入」と呼ぶ。日本の華道は室町時代(1336~1573)に成立したとされる。龍泉窯の青磁花瓶は華道に欠かせない貴重な舶来の花器で、茶道でも大切に扱われていた。日本では、鉄斑のある龍泉窯の青磁を「飛青磁」と称して珍重した。本作は江戸時代(1603~1867)に大阪の豪商鴻池家に収蔵された。釉色、造形、鉄斑の位置など、いずれも優れており、飛青磁の中でも他に類を見ない傑作である。
南宋 宋伯仁 梅花喜神譜
- 清嘉慶間阮元進呈影鈔宋景定本
- 縦 20 cm
- 横 30 cm
梅の花の生命史をご覧になったことがあるだろうか。古代には梅の花のライフサイクルを8段階に分け、その姿をあますところなく描写した本があった。13世紀の文人宋伯仁は特に梅を好み、梅の絵もよくした。自宅の庭や畑に植えた梅を観察し、「つぼみ、小さなつぼみ、大きなつぼみ、綻び、開花、満開、零れ梅、結実」─8段階に分けた梅の生命史を絵にした。宋人は肖像画のことを俗に「喜神」と称した。この本の書名『梅花喜神譜』は梅花画譜という意味である。文人たちは梅の花の観賞に雅趣を求めただけではなく、高潔な精神を梅の花に託して表現したのである。
高麗 12世紀 青磁陽刻双鶴紋枕
- 大阪市立東洋陶磁美術館 所蔵(住友グループ寄贈/安宅コレクション)
- 高さ 9.2 cm
- 幅 21.5 cm
12世紀の高麗青磁の釉色は美しく、「翠色」と称される。この作品は2羽の鶴と蓮の花の紋様が非常に丁寧に彫られている。木製収納箱の箱書を見ると、大徳寺芳春院伝来であることがわかる。内側に金粉で書かれた銘文「青磁枕花入玉室」は小堀遠州(1579-1647)が書いたという。「玉室」とは、大徳寺147世の住持となった玉室宗珀(1572-1641)を指し、芳春院を建立した人物である。この青磁枕は片側に開けた穴に長方形の金属製花筒が入れてあり、もう一方の丸い通気孔は塞がれている。現代まで伝えられた高麗青磁はごく僅かしかなく、枕を花器に転用したものは更に珍しく貴重なものである。