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可用のモノ

 硯台、墨床(磨りかけの墨を置いておく台)、硯滴(すずりの水)、筆洗(筆の穂を水で洗うための器)、紙鎮(文鎮)、香炉、花瓶等の器物は、共に十七世紀の文人の生活状態を創造しました。これらは、高尚な観賞用の趣味の品、或いは書斎を飾る道具として使用され、特定の時空下にユニークな生活状態を表しています。収集家の姓名や款識のある文物は文人、及び収集家のそれぞれの気持ちと経済能力を反映しています。「可用」と「不可用」の分野では、細かな部分は、文震亨、及びその友人たちの知識と教養、そして品格への判断が体現されています。時節が流れ行く間にあって、文人たちは心穏やかにモノを構築する世界の中で、「明代書斎情境区」は、正にこうした価値観の中に於いて文人が掲げる理想の書斎を具体的に表現したのです。

  • 日本 十八世紀 桐蒔絵小箱

     《長物志》〈廂(箱)〉の条の中には「倭廂」という作品が出てきます。即ち日本の蒔絵漆箱です。材質が軽い上に精緻に作られているため、「古玉重器や晋の小巻」や「巻軸、香薬、雑玩」等の骨董品の収納に適していると見なされ、書斎に予備として、沢山置かれていました。

  • 明 孫克弘 銷閒清課図

     当作品は二十種の明代後期の文人の優雅な生活を描いたもので、どの作品にも題字が加えられています。この図像と文字を通して、少なからず文震亨と類似した生活へのこだわりを感じ取ることが出来ます。

  • 明 王綦 東籬秋色図

     当作品のテーマは菊の花と奇石で、色合いもあっさりとしていて品も良く、精緻さも欠けていません。《長物志》〈懸画月令〉の一条を基に描かれたもので、9月、10月に掛けて楽しむ最適の軸です。

  • 居家必用事類全集

    • 元 不著撰人
    • 明司礼監刊本

     本書は十四世紀の元朝の人が編纂した家庭事類大全の日用類書です。十集に分けられており、家法、仕宦、家屋、農耕・養蚕、飲食、吏学、薬方、延寿など諸々のことが書かれています。その中の「戊集」では、「文房適用」および「宝貨辨疑」が記載されており、知識人に対し、筆、墨、紙、硯をはじめ、日用品に属さない象牙簡笏、金、銀、玉帯、玉器、水晶、メノウ、琥珀、真珠、サンゴなど珍奇な宝物を如何に購買するかを教えています。

  • 北宋 汝窯 青瓷碟

     安歧家旧蔵汝窯の器
     この作品の木製の台座には「安儀周家珍蔵」の鑑識が彫られています。その実、この器は清の宮廷に入る前は安歧の古いコレクションでした。安歧(1683-1745)、字は儀周、清初(18世紀前半)天津、揚州一帯で活躍していた書画収集家で、真贋を見分ける眼力を持ち、古物の鑑定に精通しており、《墨緣彙観》を著しています。また一方で、もし文震亨の時代に戻ってみると、彼(安歧?)は、汝窯については余り触れていないことに気が付くでしょう。しかし高濂は、むしろ早期に出版した《遵生八牋》の書物の中で、滔々と汝窯の磁器の特色を語っており、文物流通の変化が反映されています。

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