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文震亨と長物志

 文震亨、字は啟美、号は雞生。文震亨は、明代蘇州の極めて影響力のある文芸世襲の家柄の出身です。曽祖父の文徵明(1470-1559)から始まり、文氏一族は多くの詩文・書画に長けた人物を輩出していました。文震亨は明代後期、家族文芸の伝統を継承した代表的人物です。彼の活動範囲は郷里の蘇州にとどまらず、四方に広がり、エリートが集まる南京、杭州などの地にまで及び、多くの文人と交遊し結社を作り、詩文で互いに唱和していました。  

 文震亨は蘇州の文人の豊かな文化資本を抱え持っており、自らの四芸(琴、将棋、書、画)をはじめ、香を聞くことや飲食、服飾・器物、造園の配置に対する教養見識を《長物志》と題して一冊にまとめ、明朝末期に於ける洗練の極に達した代表的な覚え書きの書となりました。また当時の風雅な文士の生活が如何に各方面で細かく重んじられていたかも見て取れます。本章では文震亨と親友たちの作品とコレクション、及びすこぶる人気のあった文震亨著作《長物志》の数種の版本をご紹介します。

  • 明 文震亨 画山水

     画中の静まり返った水辺の楼閣を去り往く文士が、後ろを振り向いて仙境とも思える石樑飛瀑を眺めています。当作品は清兵が入関した1644年に、文震亨が優雅に暮らしていた曽ての生活を追憶して描かれたようです。

  • 長物志

    • 明 文震亨撰
    • 明末葉刊本

     当書は十七世紀初期に創作されたものです。長の読み方は中国語でZHANG。「長物」は《世説新語》「身無長物」の故事から来ており、もともと「無用の長物」の意を指します。当書に書かれている文震亨の日常住んでいる所で、見たり感じたりするモノは、「無用の長物」の様に見えますが、至るところに味わいと才気を見ることが出来ます。

  • 呉県志

    • 明 牛若麟修編纂
    • 明 崇禎十五年刊本

     江蘇省の呉県は、蘇州府城西の片隅に位置しており、素より東南の有名な郡でした。《呉県志》は、呉県の自然・風俗、戸籍・田畑、邸宅・庭園と人物の伝記を具体的に記しています。全書五十五巻で、文徴明一家の活動が数多く記録されています。例えば文徴明の父-文林が築いた「停雲館」、ひ孫-文震孟の「薬圃」(薬園)と文震亨の「香草垞」(丘)は、明代蘇州の文人の社交や文芸活動の著名な場所となり、小時代の下、文化世家の地元での影響力の一面を体現しています。

  • 明前期 龍泉窯 青磁劃花鳳尾瓶

     十六世紀末葉、江南地区の文人の間では、花芸と花器を日常生活に取り入れる習わしが徐々に起こり、昔の雰囲気を醸し出しただけではなく、花瓶も鑑賞したのです。文震亨は、比較的、背の高い龍泉窯の花瓶が、梅の花を挿すのに適していると述べています。

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