偽好物─16世紀~18世紀の「蘇州片」とその影響,展覧期間  2018.4.1-9.25,北部院区 第一展覧エリア 会場 206、208、210、212
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蘇州を起源とする「偽好物」─明代中期以降の「偽好物」の新しい典範

 明代中期以降、蘇州は江南地方のみならず、国全体の文化や流行の中心地となっていました。蘇州風の服飾品や家具、道具類のほか、蘇州園林や絵画、点心(軽食類)まで、蘇州の品物が全国各地で先を争うようにして模倣されました。もともと蘇州には豊かな文化資本があり、画家たちは江南地方に収蔵されていた多数の文物を生かして古い絵画から学び、臨模しながら独自の画風を生み出し、画壇の主流となっていったのです。例えば、「明皇幸蜀図」は著名な項元汴(1525-1590)一族の収蔵品の一つでしたが、蘇州の職業画家として名高い仇英は項家で古代の絵画を臨模しながら学び、後に多数の新作を制作しました。また、文人たちの品評会を通して、蘇州の書画に関する知識や趣も徐々に深化しながら広まっていったのです。

 当時、江南地方は経済的にも繁栄しており、書画収蔵の意思も財力もある人が大勢いました。 書画の販売は大きな利益が期待できたため、蘇州には古画の工房が多数出現し、一部とはいえ文人画家までもが偽作を手がけるほどでした。こちらに展示されている仇英の名を冠した対幅は仇英の「仙山楼閣」などの界画を模写したものです。この種の画作は古代の有名な宮殿の絵に詩詞を添えて、華やかで文化の香り高い商品としたもので、応接間向けの装飾品でした。画面細部の表現や寓意が込められた故事、文化的なルーツを感じさせる「蘇州片」は「偽好物」の新たな典範となり、広く庶民の人気を集めました。

明 仇英 画連昌宮詞

  1. 形式:軸 絹本着色
  2. サイズ:縦 66.8 cm 横 37.6 cm

 隋唐時代の名高い宮殿─連昌宮を主題とした詩画軸の詩塘には、文徴明が書いたとされる宮詞二十五首が必ずある。この作品の書法と画風は、本院所蔵「長信宮詞図」にかなり近く、いずれも四幅対となっている。当時の工房は、仇英の絵に文徴明の題識を入れた品を好んで制作し、それで客を呼び込んだ。この絵は濃厚な青緑描金で描いた山水に楼閣と人物が配してあり、四幅揃えて客間に掛ければ、豪華で見栄えもよかったに違いない。
 この詩画軸は仇英画、陸師道題詩の「仙山楼閣」を模倣の対象としたのだろう。左側手前の松林とその間に見える宮殿にも類似点が見られ、原作の含みある典雅な趣が失われているだけで、鮮やかな色彩や細部の複雑な描写はより強調されている。画中の宮女らを見ると、舞い踊っている者もいれば、欄干にもたれたり、琴をつまびいたり、対座して閑談する者などもいて、実に興味深い。

明 仇英 画長信宮詞

  1. 形式:軸 絹本着色
  2. サイズ:縱 66.5 公分 橫 37.7 公分

 漢代の名高い宮殿─長信宮を主題とした詩画軸の詩塘に文徴明が書いたとされる宮詞二十五首がある。本作と「連昌宮詞図」は二作で一揃いとなっており、書法も画風もよく似ているのは、同じ工房で制作されたからだろう。宮詞の末行に「偶閲仇生所絵金碧四幀、精工綺麗、不減唐之小李、宋之伯駒矣。漫書宮詞百首、以附不朽。長洲文徴明識。」とあり、本来は四幅対の作品だったことがわかる。奇妙な形の山石、濃厚な青緑による着色、輪郭の一部に金が使われており、鮮明な色彩美に加えて、複雑な構造を持つ宮殿に紅白の梅が咲き誇る中、宮女たちの姿も見え、仙境のごとく麗しい、のどやかな風情が漂う。このような四幅対の画軸を客間に掛ければ、格調高く華やかな雰囲気となったはずで、かなりの人気商品だったに違いない。