蓬莱はいずこ─仙山図 特別展,展覧期間  2018.7.1-9.25,北部院区 第一展覧エリア 会場 202、208、212
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別天地を求めて

 遥かに遠い海上の仙山に比べたら、名山や洞天福地は俗世や道士から見ると、より身近な聖域だったと言えるでしょう。陽の光に照らされているかのように明るい洞天には霊府神館があり、霊府は各地の洞天に通じているとされます。桃花源に迷い込むのは、洞穴から仙境にたどり着く俗人がいたという伝説の一つです。

五代 董源 洞天山堂

  1. 形式:軸
  2. サイズ:183.2x121.2+詩塘 28.4x121 cm
  3. こちらの作品には展示制限があります。展示期間は7月1日~8月13日までとなります

 本作は無款だが、詩塘にある王鐸(1592-1653)の題跋によれば、五代の董源(10世紀前半に活動)の作だという。董源は江南鍾陵(現在の江西省南昌市)出身で、江南の山水を披麻皴で描き、絵画史上重要な山水画派の祖となった。しかし、この作品は確かに董源の画風が見られるが、元代の作であろう。前景の橋に三人の人物がおり、二人は帽子をかぶっている。三人とも客人を迎えに来たようである。中景に聳える宮殿の屋根は雲霧に覆われている。もやと青緑色の高山が交わる箇所に大小異なる洞穴の入口が見える。自然光に照らされる洞穴は、名山の洞穴を仙宮霊府とみなした道教の考え方に合致しており、太陽と月を重んじる宗教観を内包する。画幅の左上部に「洞天山堂」4文字がある。誰の書かは知れないが、この作品にふさわしい形容だと言える。

元 方従義 神嶽瓊林図

  1. 形式:軸
  2. サイズ:120.3x56+詩塘 27.6x55.8 cm
  3. こちらの作品には展示制限があります。展示期間は8月14日~9月25日までとなります

 方従義(1301-1378以降)、号は方壺、江西龍虎山上清宮正一教の道士で、全真教の領袖金蓬頭(1276-1336)に仙道を学んだ。
 作品名の「神嶽瓊林」は方従義の題識による。「瓊林」は龍虎山の瓊林台を指し、「神嶽」は梁(南朝)の陶弘景(456-536)の著書『真誥』から取られており、宗教的な道教の聖山を描いたことがわかる。前景には樹木が鬱蒼と繁り、手前に大きく広がる川が奥に向かって細く流れて行く。中景の竹林に家屋が見え隠れしており、その左にいる隠士が杖をつきながら高台に登ろうとしているが、聳える巨大な山峰がその姿を一層小さなものに見せている。山石は湿筆を用いた刷、点、染で描かれている。気の向くままに筆を走らせ、聖山の生気と超凡な雰囲気が直感的に表現されている。

明 鄭重 倣王蒙葛洪移居図

  1. 形式:軸
  2. サイズ:135.8x29.1 cm

 「葛仙翁移居図」に描かれる葛仙翁とは、葛洪(283-343)を指す。晋の丹陽句容の人で、道教金丹道派を代表する人物である。葛洪は名山や山岳地帯で修練を積んで煉丹に励めば道が得られると考えていた。晩年、交趾で丹砂が取れると聞いた葛洪は子弟を伴って交趾に向かった。広州刺史鄧嶽のためにその地に留まり、羅浮山で煉丹や修行に努め、没後は羽化登仙したと伝えられる。
 鄭重(17世紀前期に活動)は細長い画面に細かく丹念に描き込んでいる。前景には、牛に乗って山道を進む葛洪と妻の鮑姑が描かれている。その傍らにはガチョウを抱えて瓢箪を背負った童僕がいて、羊と犬も同行している。曲がりくねる山道を行き、山々を越えてようやく道観にたどり着くことができる。仙道を求める人間の姿が象徴的に表現されている。