蓬莱仙島と崑崙神山は伝説上の二大仙境です。『史記』には、戦国時代の君主が人を遣わして三神山─「蓬莱」と「方丈」、「瀛洲」を捜し求めたとの記述があります。崑崙山は『山海経』に記されている神域です。この二つの地には仙人たちが住むとされ、不思議な鳥獣や植物が生息し、豊かな品々で満たされていると言われます。六朝から唐代にかけて道教が盛んになると、道士たちは地図に記載されている実在の名山を仙道化し、洞天福地思想が形成されて、仙境がより現実性を帯びたものになりました。名山洞府は仙道を求める人々にとって、薬草の採取や煉丹、修行の場であり、仙人の姿を求め、道を得て仙界に至るための中継地でもありました。
伝世の山水画にも仙境を題材とした作品が多く、本院が所蔵する宋代から元代、明代、清代に制作された絵画にも多種多様な仙山が描かれています。この度の特別展では、三十幅の絵画を精選し、「渺茫たる仙境」、「別天地を求めて」、「修行と薬草採取・遇仙と昇仙」─三つのコーナーに分けて展示を行います。
第一章「渺茫たる仙境」では、画中に描かれた不可思議な仙山楼閣や崑崙、蓬莱、方壺、瀛洲など、仙境の風景をご覧いただきます。宋代の緙絲作品「仙山楼閣」、明代の文伯仁「方壺図」、宋代の趙大亨作と伝えられる「蓬莱仙会」などを展示します。第二章「別天地を求めて」では、道教の「洞天福地」という観念を主軸に、霊山洞府の神秘的な雰囲気や、道士でもあった画家たちの聖山への崇敬を絵画を通してご覧ください。五代の董源作とされる「洞天山堂」と元代の方従義「神嶽瓊林図」が代表的な作品です。この二作は展示期間に制限があるため、前期と後期に分けて展示されます。第三章「修行と薬草採取・遇仙と昇仙」では、一般庶民の仙人への憧れ、山中での修道を経て俗世から聖域へ到達するまでの実践と超越についてご覧いただきます。宋代の燕文貴作と伝えられる「三仙授簡」、明代の崔子忠「雲中鶏犬」などを展示します。古画の中の聖なる仙山に遊びながら、そこに秘められた玄妙な文化や思想もおわかりいただけるでしょう。