貴貴琳瑯游牧人─故宮所蔵清代モンゴル・ウイグル・チベット文物特別展,陳列室:303
貴貴琳瑯游牧人─故宮所蔵清代モンゴル・ウイグル・チベット文物特別展,陳列室:303
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珊瑚とトルコ石の対話

 モンゴル人とチベット人は珊瑚とトルコ石を特に好み、金器や銀器の装飾に使うことが多く、それに真珠や蜜蝋を組み合わせて、豪華で色鮮やかな大ぶりの装飾品を作りました。大きな行事や祝い事の際にはいくつも重ねて身につけ、遊牧文化独特の美感が生まれました。地中海産の珊瑚、イラン産のトルコ石は非常に貴重なもので、それを身につける人物の地位と財力の象徴でもありました。珊瑚や水晶、シャコガイなどの色とりどりの宝石類は、仏法の尊さを具象化したものである一方で、自然崇拝を基本とする苯教(ボン教)において貴重な宝石は護身符とされました。宝石で装飾された物は吉祥や幸運、社会的地位の象徴であり、モンゴル人とチベット人特有の美しさでもあります。

清 銀嵌珊瑚松石冠頂

  1. 18世紀
  2. チベットの作品

 チベット人は男女ともに好んで宝石を身につける。珊瑚とトルコ石、蜜蝋が特によく見られる。チベットで用いられる珊瑚は地中海産で、その多くがインドとカシミールなどを経由して輸入される。トルコ石はチベットでも生産されるが、緑色がかった石に褐色の筋が入っている。この冠頂のトルコ石の色は緑色がかっているので、おそらくチベット産の鉱石が使われている。冠頂という装飾品は身につけている人物の身分を表すことが多い。この冠頂の素材は銀で、一部が金メッキされている。一番上の宝石は欠落している。その下のトルコ石と蜜蝋の間には珊瑚の玉がはめ込まれている。最下層のトルコ石は花弁形に配置され、その周りは珊瑚玉でぐるりと囲まれている。中間の銀の台座に乗る蜜蝋は瓜形で、その上下は大小の珊瑚玉で飾られている。銀の土台は打ち出しで作られており、その跡がうっすらと見え、鍍金の色は淡い。底部分に冠帽に固定するためのはめ込み口がある。全体に素朴な感のある丁寧な作りとなっている。チベットの地方色豊かな工芸作品である。

清  銀嵌珊瑚松石冠頂

嵌松石珍珠帽

  1. 清 18世紀
  2. チベット製

 清代の統治時期、チベットの貴族は公爵や札薩、台吉に封ぜられ、行政体制を担う一員として遇されていた。貴族の冠飾と身分には関りがあり、地域的な違いも反映されていた。祝い事や行事の際、ラサ一帯の貴族の女性たちは身分の高低に合わせて頭部に「真珠の巴珠」や「珊瑚の巴珠」をつけた。「巴珠」はチベット語で「頭冠」を意味する。三角形の支柱を「氆氌」という毛織物で覆い、表面は大量の宝石類で装飾されている。身分の高い者は巴珠をつけた上に「珍珠帽」(真珠の帽子)をかぶった。珍珠帽の土台となる部分は木製で、全体が連ねた小さな真珠を巻きつけるように埋め尽くされており、所々トルコ石で彩が添えられている。帽子の上部には金にトルコ石をはめた装飾がある。内側は赤い漆が塗られ、華麗で重厚な趣のある装身具である。真珠の冠飾のほか、編んだ髪に通したトルコ石の大きな耳飾を両耳の横に垂らし、胸に「嘎烏」と言われる小さな仏龕をつけ、真珠にひもを通して長く繋げたものなどの装身具を身につける。高貴な雰囲気の内に優雅な美しさが感じられる

元 朱叔重 春塘柳色

嵌珊瑚珠石黒絨髪辮套(髪飾り)

  1. 清 18世紀
  2. モンゴルの作品

 清朝ではこの「辮子套」を「黒絨練垂套」と呼んだ。長い筒形でこの中に髪を入れる。管の両端内は皮で補強されており、外側は珊瑚の玉を環状に並べた装飾がある。モンゴル国立博物館研究員によれば、この様式はトルグート(土爾扈特部)の女性が使用するもので、トルグートは黒を吉祥の象徴とするため、黒いベルベッドで作られている。モンゴル族の髪飾りと帽子は非常に特徴的で、ハルハ(喀爾喀部)の女性は大きな羊の角のような形に髪を結い上げて様々な髪飾りをつける。編んだ髪を肩に垂らし、それに色とりどりの宝石で飾られた辮子套をつける。この辮子套は修理の際に薄い絹布(crepeline)が加えられた。きめ細かく薄い絹布で、織物製品の保存と修復にしばしば利用される。本院修護部職員の処置に感謝したい。黒いベルベットには黒い絹布が使われており、保存のために辮子套の形に合わせて縫製しカバーしてある。

嵌珊瑚珠石黒絨髪辮套(髪飾り)