仏像は信徒の礼拝、観想(観念)の対象である。『龍蔵経』の上・下には蔵伝仏教(チベット仏教)の各種さまざまな神像756体が描かれています。いずれも『造像量度経』の規定に従った比例、色、造形が制作されており、蔵伝仏教の神譜として最上の宝典です。これらの尊像は諸仏、菩薩、語法、祖師、声聞羅漢の五種類に大別されます。このうち護法類がほぼ半数を占め、また女性の尊像も四分の一を占めています。荘厳、静寂あるいは猛威、憤怒を問わず、衆生を救うために仏の姿で現世に現れたもので、これは蔵伝仏教の大きな特色です。
このコーナーでは、経板尊像、金銅仏、仏画、諸尊が手にした各種の法器を展示し、蔵伝仏教の奥義をご紹介します。
五方仏
- 清 十八世紀 五色数珠および五方仏像
この仏像はまたの名を「五智如来」といい、五つの知恵(法界体性智、大円鏡智、平等性智、妙観察智、成所作智)を象徴している。蔵伝仏教(チベット仏教)では、修行者は真言念誦と曼荼羅を観想することに専念しなければ、即身成仏の境地に至ることはできず、また五つの知恵を備えてこそ成仏できるとされている。
五つの知恵を備えているのは、大日如来(盧舎那仏)のみで、大日如来は釈迦牟尼の法身仏といわれている。衆生を教化するため、大日如来は五仏となった。中央は盧舎那仏。白色で法界体性智を象徴する。東は阿閦仏。青色で大円鏡智を象徴。南は宝生仏で黄色く、平等性智を象徴。
西は阿弥陀仏で赤い色をしており、 妙観察智を象徴。北に位置するのは不空成就仏。色は緑で、成所作智を象徴する。
この五方仏像および数珠には四つの引き出しが付いた漆箱がある。引き出しには青金石、琥珀、珊瑚、緑松石を材料として作られた仏像、数珠が収められている。また引き出しの蓋に当たる部分の裏地には、黑漆地に泥金で真言が書写されている。清朝の十八世紀の作品である。
V-34
西蔵十七世紀噶瑪拔希大宝法王唐卡
チベット十七世紀 噶瑪拔希(=カルマ・パクシ)大宝法王タンカ(=チベット絵画)
蔵伝仏教(チベット仏教)にカギュ派が興ったのは十一世紀で、密宗の学習を重視し、口伝によって伝えられた。カギュ(チベット語で口伝の意)の名はここから付けられた。カギュ派の創始者は修業時代、常に白色の僧衣を着用していたことから、白教とも呼ばれた。カギュ派は蔵伝仏教の中で最初に、化身ラマ(転生活仏)制度を採用した教派である。
この絵画は十七世紀にカルマ・カギュ派の「カルマ黒帽ラマ」の作品。で、「カルマ黒帽ラマ」の二代目祖師カルマ・パクシ(1204-1283)およびその伝承を描いたもの。
カルマ・パクシはかつてモンゴルに招待され、皇帝から礼遇を受けた。1256年、モンゴルの皇帝から金の縁取りのある黒い僧帽と、一個の金印を賜った。これをきっかけに、カルマ・パクシ一派は「カルマ黒帽ラマ」と称するようになった。
この作品は、筆致が細密で着色は優雅で、漢の影響を受けたチベット東部の画風の典型といえる。
清 姚文瀚 第一阿迎阿機達尊者
在雄大な岡底斯雪山に住む聖者、因竭陀尊者(阿迎阿機達)。手には香鉢と払子を持ち、一千三百人の阿羅漢が付き従っている。 阿迎阿機達尊者はチベットの十六羅漢のうち、第一に数えられる。釈迦牟尼の命を受けて大雪山に住み、仏教の護持に努めた。画中の羅漢は頭の周りに光の輪が浮かび、中国風のゆったりした袈裟を着ている。岩の上に腰を下ろし、左のひじで払子を挟み、両手で香炉を支えている。信徒が香の香りをかぐと、 持戒、すなわち欲望を抑え、戒律を保つ妙味を得ることができ、払子に触れると煩悩や疾病を取り除くことができるといわれている。
尊者の左右には二人の僧侶が立ち、二匹の獅子がうずくまっている。尊者の頭上の丸い光の中には竜王仏、その後ろには八匹の蛇がとぐろを巻いている。これは八大龍王を表している。竜王仏、尊者の持ち物の描き方、さらに従者の袈裟の一部がめくれている画法に、チベットの形式を見ることができる。
金剛鈴、金剛杵
- チベット 十五世紀