乾隆帝は各種各様の貴重な文物を所蔵していました。前朝から継承したものもあれば、外国の使節により持ち込まれた舶来品や地方の大臣から献上された特産品などもあり、世各地からもたらされた、ありとあらゆる貴重な美術品が宮廷に収蔵されていました。生来の美術品好きだった乾隆帝は、多忙を極める政務の合間を縫うようにして文物を観賞しつつ考証も行い、きちんと整理して収納していました。そうした行いから大小異なる「百什件」が誕生したのです。「百什件」は「百事件」とも言われ、康熙帝(在位期間:1662-1722)の代から各種文物の組み合わせを指す呼び名として使われるようになりました。こちらに展示されている「百什件」には44点の珍玩(小型の文物)が収納されています。古代の玉器や当時の磁器、東洋の漆器、西洋の有名ブランドの時計など、皇帝の宝箱に入っている文物の来歴や、古代から近代に及ぶ東西各地の文物の特色をご覧いただきます。この「百什件」には嘉慶帝(在位期間:1796-1820)の御筆による小さな巻物も収蔵されており、清朝の皇帝たちが文物の組み合わせや収納を重んじ、前代の宝箱に自分の収蔵品も加えるなどして大切に保管して、代々受け継いでいったことがわかります。
清 乾隆
雕紫檀蟠龍方盒百什件
- 附44件珍玩
- サイズ:長さ30.5cm、幅30.3cm、高さ16.5cm
紫檀浮雕雲龍紋罩蓋匣の中には、二つの引き出しが重なっており、上の引き出しは于敏中(1714-1780)と楊大章(乾隆朝中後期に活躍)の手になる書画が描かれた玉器の引出しで、ここから乾隆中期に作られた百什件であることが分かります。下の引出しには磁器、玉、書、画、更には日本の漆器や西洋の鼻煙盒など各種の文物が収納されています。引出しの中は更に区切られており、下敷きがあって、それを積み重ね、それぞれの空間に文物が置かれています。引き出しの中には「集古函珍」(多宝格)があり、紫檀で文物の型通りに作り収納しており、空間設計は実に手際よくできています。装飾手法、材質共に幅広く運用しており、乾隆帝の時代の百什件の代表作と言えます。面白いことに、箱の中には嘉慶帝の御書冊二冊、趙秉沖(?-1814)の篆書、董誥(1740-1818)山水画が各一巻あり、巻物には全て嘉慶帝御筆と引首印があり、この百什件が曾て嘉慶帝の時代の庫蔵を司る役人がこれを整理したり添加したりしていたことを示しています。清朝の皇室が重視する文物の組合せや收納に加えて伝承の特殊な文化を映し出しています。