匠心筆蘊
展出時間 2015年7月18日至2016年1月10日,陳列室 104
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版画創意─版画に見られる創意

書籍版画の製作は作図から始まります。画家は先ず紙に下書きを模写し、次いで彫刻師が版木に彫刻を施した後、書籍に複写し、装丁してできあがりです。早期、書籍版画の機能、及び特色は図の解釈を強調していました。明代中期から清初に至り、書店の商人がこぞって招いたり、宮廷画家も参与したりして、陳洪綬・金古良・蕭雲從・任渭長などの著名な画家が個人の風格で、新たに訳し直し、ユニーク且つ群を抜いた芸術作品を創造しました。本コーナーでは、画家の原稿と版画の作品を照らし合わせ、版画と宮廷画作のテーマが同じ場合、参観者は芸術の風格を有する画作と版画との違いを細かに観察することができます。

この他、活発な商業活動の中にあって、書籍版画の構図や文様は、明・清両代の工芸品の製作にも互いに影響を及ぼしました。名家の版画には、よく竹雕・磁器・漆器・書斎の硯や墨等の工芸品の図柄に用いられていたため、宮廷から民間まで、更に国内の販売から輸出に至るまで、工芸品上にはやはり版画の構図と文様の影響力を見ることができ、版画はいつの間にか工芸市場の文化的創意を養成する源となりました。

南陵無双譜

  1. 明 金古良絵編
  2. 清康熙間刊本

《無双譜》又の名を《南陵無双譜》と称し、金古良の手により、漢代から宋代までの歴史人物、計四十幅が描かれている。その事蹟は世に並ぶものがないため、《無双譜》と命名された。清初の毛奇齢は、かつて《無双譜》は書・画・詩の妙技を兼ね備えていると絶賛している。本作品は李青蓮を刻しており、元々の構図とほぼ同じである。図画の後ろの評論には本来はないハスの花を刻し、李白の号である青蓮居士の雅称に呼応しているようだ。

南陵無双譜

清 剔彩耕作図瓣式盒

  1. 徑20.5公分 高9.0公分

六瓣式盒(蓋つき小箱)は、盒の側面は錦地の開光(飾り枠)内に山水、鶴、鹿。開光間は八宝で装飾されている。盒の蓋の上面も六瓣式で、耕作図がある。前景の農地の水は満ち溢れ、一人の農夫が笠をかぶり、ズボンの裾をまくり上げ、手には「碌碡」(ロクトク・農具の一種)を握り、牛を前方に追いやり水田を平らにしている。農夫は水牛のそばを歩きながら、後ろをふり向いている。水田の後方には曲がりくねって延びている水路があり、水岸には牛に乗った牧童、もう一つの岸には繁茂した木陰に農家が見える。小橋は横にかかっており、遠くには山脈が続いており、農家ののんびりとした中にまめに働いている落ち着いた作風である。構図は康熙年間の冷枚が描いた絵《耕織図冊》以來の作法を参考にしている。

剔彩(てきさい)の漆塗りの小箱は、異なる色の漆で文様を表している。上層は赤の漆を主として、人物と山林を、次の層は綠の漆で縱貫する河を、更に下層は黄色の地で遠景や空をそれぞれ表現している。作品自体しっかりと描かれ、彫刻も整っている。古代帝王の親耕(お田植え)は先農を祀る際の重要な儀式で、清代礼制では每年陰暦2月亥の日、皇帝等全てが先農壇祭祀に赴き、更に観耕台に行き親らが耕すきまりがあり、土地と農業への重視が伺える。

刻京臺增補淵海子平大全

清 康熙 五彩水滸人物図盤

磁器製の大皿の口は広く、丸い孤壁があり、圈足は短い。圈足の旋痕ははっきりとしており、款はない。陶磁胎は真っ白で釉色も均等でむらがない。この絵は《水滸伝》の中の三人の英雄である。《水滸伝》は口頭文で書かれた回数を分けて記述された長編小説で、内容は北宋の頃、108人の豪傑が梁山泊の所に集まり匪賊となるが、後に朝廷に帰順する故事である。絵皿に描かれている三人は、「双鞭」の呼延灼、「浪裡白條」の張順と「小旋風」の柴進である。呼延灼は得意とする武器を携えて中央におり、隣は張順で、二人の向かい側にいるのが柴進である。三人の腰には札が結び付けられており、札には金彩畳紅で姓名が書かれている。人物の顔や手は繊細で意気込んだ様子を赤い線を用いて輪郭を描いており、表情も繊細を極めている。更に綠・黒・黃・青・紫・とび色の各色の彩色画は彼らの姿の特徴である服飾や冠や靴を代表しており、全体的な風格は精緻で生き生きとしている。

明末清初に磁器の装飾上には、よく戯曲や小説、版画の人の故事の図案が見られる。1910年に出版された《匋雅》は康熙帝時代の「西廂」に話が及んでおり、「水滸」の故事は磁器の装飾となっている。この大皿は五彩技法で装飾されている。五彩磁は高温で焼成した白磁の上に、様々な色で絵を描き、再度低温で焼いて作った作品である。康熙帝の時期,五彩の内、礬紅(バンコウ)の他、綠・黃・紫・青は均しく水に潤い、均等に染みるため、燒成後の釉彩は僅か皿の上に突出し、殊に釉上に青を彩色すると、更に突き出る。当作品はこの代表的なものである。

清 康熙 五彩水滸人物図盤

張深之先生正北西廂秘本

  1. 元 王実甫撰 明 陳洪綬絵、項南洲刻
  2. 明末刊本

元の王実甫の《西廂記》は、明代になり大量の注釈や評語と批点が加えられ、更に版本が書き換えられなど、人気を博した。《張深之正北西廂秘本》は明末の山西の人張道濬が杭州に居た頃、当地の文士と交流し、共同で校訂に参与したもので、「参訂詞友」は32人にも達した。その中には孟称舜、沈自徵等、当時の著名な劇作家も含まれている。絵を描いた陳洪綬は字は章侯、号は老蓮、浙江諸暨の人。明末の著名な画家で、人物画に長けていた。陳洪綬も、「参訂詞友」の一人で、この五巻二十折の校訂本は六幅の脚本の正文の前の挿絵となっており、〈鶯鶯像〉を初め、各巻一折より選んだポイントである〈目成〉・〈解圍〉・〈窺簡〉・〈驚夢〉・〈報捷〉も含まれている。

〈窺簡〉(手紙を覗き見る)の画面は全くの自己流で、画家の創意を呈している。花鳥四屏を舞台に近い空間に置き、紆余曲折していて趣がある。主人公の崔鶯鶯は手紙を読むのに夢中だ。仲介人の紅娘はおどけて、唇に指を押し当て屏風の後ろからこっそりとその様子を覗き見している。人物の姿態には工夫が凝らされており、輪郭の線は力強く、真に迫っており、巧妙に一幕の劇を昔の官女の風格と結合している。

張深之先生正北西廂秘本

雕竹窺簡図筆筒

  1. 明 朱参松

明末の〈雕竹窺簡図筆筒〉の図案は《張深之正北西廂秘本》の版画を基にしている。円柱形の竹面彫刻は、平面版画〈窺簡〉と〈報捷〉の二幅の図案を転化したものである。手紙を読み耽る崔鶯鶯とおどけた紅娘は、やはり屏風を借りて二つの状態を隔てている。しかし、元々の陳洪綬の版画中の花鳥四屏は、筆筒の孤面によって簡化し、一屏となっている。もう一方の側の図案は入念に思考を経て置かれた花瓶の飾り物と文房用具等で表現されている。屏風の右下の隅には「参松」二文字の楷書体の陰刻の款がある。朱参松は明末、嘉定の竹彫師の名家で、技芸に優れ、これに学ぶ者は大勢いた。

工芸品の図案は陳洪綬の版画の図案を踏襲、運用しており、明代晚期の別の作品〈雕竹仕女臂擱〉にも見られる。臂擱に狭くて長い形の図案を彫り、新たに手紙を読む崔鶯鶯や背後の屏風と装飾用テーブルを置き、三者の関係を組み合わせ、簡素化した中にも工夫が伺える。

雕竹窺簡図筆筒