故宮の至宝
- 宋 范寛 谿山行旅
范寛は陝西華原(現在の陝西省銅川市)出身の平民画家。
独自の観察力をもって自然を捉え、
観る者を震撼させる壮大無比な山景を創出した。
丹念に描き込まれた細密な筆致は、
天地を覆う雨粒を彷彿とさせる。
天から降ってきた糸のような滝、
森に半ば埋もれているかのような古刹からは、
清らかに澄んだ鐘の音が聞こえて来る。
豆粒のような旅人とロバの隊列の背後に、
范寛の署款が巧みに隠されている。
それは長い間、沈黙を貫き無名のまま、
山岳地帯を行く旅の妙なる物語を
寂しく語り続けていた。 - 宋 郭熙 早春図
郭熙は北宋の宮廷画家であり、
絵画の理論家でもあった。
郭熙が1072年に描いた「早春図」は、
郭熙の現存作品中、最も名高い山水画の大作である。
この絵には降り積もった雪が溶け、
大地が甦る初春の風景が描かれている。
実体のある山河や樹木、建築物と、
一定の形のない漂う雲気や、
緩やかに流れるせせらぎもある。
寒暖差の不安定な初春に、
あらゆる場所に生気が満ちる1ページが
ここに残されており、
そこに行き、眺め、遊び、暮らすことができる
理想の山水が見事に描写されている。 - 宋 李唐 万壑松風
李唐は南北宋の時代に
先人の後を受け新たな境地を拓いた重要な人物である。
李唐は北宋末期に「万壑松風図」を描いた。
この作品も巨碑式の構図ではあるが、
「谿山行旅」、「早春図」と異なるのは、
人物も建築物も描かれていない点である。
主峰も意図的に小さく描いてあり、
近景の樹石の比率が拡大され、
近景の松林と観る者の距離を近づけている。
深山幽谷に身を置いているかのように、
松葉を揺らす風の音に静かに耳を傾けると、
溪澗の急流の音もそれに重なり、
絵画と音楽が調和的なメロディを奏でる交響曲となる。