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美術史に名を残した女性たち

 父系社会の下、「天尊地卑」という観念は男性学者により定義され、「男尊女卑」という考えが、性別による地位の高低を決定したのです。誤りが正されることなく正当化されたこの種の説は、本来のバランスや調和的な関係を破壊したばかりか、伝統文化や伝統的観念の一部にもなり、数千年もの間、女性の役割を位置づけたのです。「絵画は嫘(舜の妹)から始まった」と伝えられますが、圧倒的多数の「彼女」たちは美術界に埋没し、氏名を残すことさえかないませんでした。古代の女性たちは外出すら容易ではありませんでしたが、それでも「彼女」たちの多くはあらゆる束縛を振り払い、その才能を発揮して、男性中心の芸術史において一つの地位を獲得したのです。

 こちらのコーナーでは、宋代から清代までの美術史に名を残した「彼女」たちの作品─清朝宮廷に収蔵された芸術の成果を、絵画、書法、緙絲と刺繍に分けてご覧いただきます。このほか、民国以降の女流画家の作品もご紹介し、「女性は無才である」とした旧時代的な思考を正し、より多くの女性たちがその才を発揮して自己を確立できるよう、エールを送りたいと思います。

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宋 朱克柔 花鳥
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宋 朱克柔 花鳥

 朱克柔、生没年不詳、名は剛、現在の上海市松江区の人。幼少の頃から緙絲を学び、長年の経験から得た配色や巧みな運針により、南宋時代に緙絲工芸家として名を馳せた。

 淡い茶色の生地が使われている。つぼみや満開の花をつけた芍薬の枝にとまるシジュウカラが、葉に付いている小さな虫を狙っており、次の瞬間には飛び上がって虫を捕らえそうに見える。自然界の緊張感漲る一瞬が、磨き抜かれた技巧により転化されている。均等に引き締まった絹糸が立体的な輝きを放つ、芸術的な佳作である。

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宋 楊氏 題馬遠倚雲仙杏
宋 楊氏 題馬遠倚雲仙杏
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宋 楊氏 題馬遠倚雲仙杏

 楊氏(1162-1232)、宋会稽の人。寧宗(在位期間1194-1224)の皇后。幼少の頃に美貌を評価されて宮廷に入り、嘉泰2年(1202)、皇后に立てられた。

 杏(アンズ)の一枝が描かれた工筆着色画で、構図は簡潔だが、謹厳かつ丹念に着色されている。馬遠(1189-1225に活動)による小品の名作である。右上部に楊皇后の題詩がある。気品と趣のある表現が、詩文と絵画が溶け合うような美を添えている。楊皇后の書は捺筆の雁尾、転折の丸みが特徴的で、いずれも寧宗の書に近く、秀美なうちに豊かな味わいが感じられる。

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元 管道昇 致中峰和尚尺牘
元 管道昇 致中峰和尚尺牘
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元 管道昇 致中峰和尚尺牘

 管道昇(1262-1319)、字は仲姫、浙江の人。趙孟頫の妻。仏教を篤く信仰していた。墨竹や梅、蘭などの絵をよくし、山水画と仏像画にも優れていた。

 これは管道昇が中峰明本(1263-1323)に送った書簡で、恩師への深い感謝と、法師の導きにより家人の法事を執り行いたい旨が記されている。書体は楷書、行書、草書の3種(雑体書)を使って書いてあり、謹厳かつ端正な用筆である。題と書信が一つに表装されている。「趙管」の印があり、中国古代の女性が夫の姓を冠した伝統がうかがえる。

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明 仇氏杜陵内史 画唐人詩意
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明 仇氏杜陵内史 画唐人詩意

 仇氏(16世紀)、名は珠、号は杜陵内史、江蘇太倉(現在の江蘇省蘇州市太倉市)の人。仇英の娘であり、家で絵画を学ぶことができた。精妙かつ秀麗な画風で、卑俗な雰囲気は微塵もない。

 庭園の喬木に雲がかかり、満開の牡丹が咲いている。薄化粧に華服を纏った仕女が一人、牡丹と樹木の前に佇んでいる。右下に「呉門仇氏戯写」と書いてある。人物の線は非常に細く、着色は艶やかだが典雅な趣がある。前人は仇英の画風を評して「髪翠豪金、絲丹縷素、精麗豔逸、無慚古人。」と讃え、それをもって仇氏の画作を形容したが、決して過大評価ではない。

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明 邢慈静 画大士
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明 邢慈静 画大士

 邢慈静(16世紀後期-17世紀初頭)、山東の人。邢侗(1551-1612)の妹。大同知府の馬拯に嫁いだため、馬邢卿とも言われる。観音菩薩像や墨花を巧みに描いたほか、詩詞もよくしたが、特に文章で才を発揮した。

 墨の代わりに金を使い、白描で観音菩薩が描かれている。運筆は簡潔だが滑らかで、暗い地の色に泥金の線が映えている。画上に四言八句の賛が泥金で書いてあり、仏を拝み、仏を尊び、仏に祈りを捧げる─その心情を伝えている。

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明 文俶 画春蚕食葉
明 文俶 画春蚕食葉
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明 文俶 画春蚕食葉

 文俶(1595-1634)、字は端容、江蘇の人。文従簡の娘で、文徴明の玄孫にあたる。趙宧光の息子趙均(字は霊筠)に嫁いだ。幼少の頃から聡明で写生を巧みにし、仕女画もよくした。

 この作品には、クワの緑色の葉から垂れ下がる真っ赤な実と、まるまると太った蚕がのそのそと動く様子が描かれており、生気溢れる画面となっている。清新な題材に趣深く丁寧な描写、色遣いも瑞々しく鮮麗で、生物の調和と色彩が織り成す天然の美が表現されている。

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明 林雪 山水
明 林雪 山水
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明 林雪 山水

 林雪(17世紀前半に活動)、字は天素、福建の人。杭州西湖の名妓で、書画ともに優れ、吟詠もよくした。その詩文には女性らしさがある。秀逸な筆致で描かれた山水画はたおやかで可愛らしい。古画の模写は本物と見紛うほどだった。

 女性画家の現存作品の中で数少ない山水長巻の一つで、本院にもこの一例しかない。川と陸地が連綿と続く風景の中に船や村の家屋が見え隠れしている。江南地方の水郷らしい、のどかで悠々とした景色が広がっている。全体に筆墨の味わいに重きが置かれている。蘭千山館寄託。

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清 周禧 画羅漢
清 周禧 画羅漢
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清 周禧 画羅漢

 周禧(1624-1705頃)、別名は淑禧、号は江上女史、江蘇の人。処士の周栄起(1600-1686)の次女。花鳥や草虫画をよくし、仏像や人物画にも優れていた。

 周禧の画羅漢は計十軸ある。岩に腰を下ろしている羅漢や木にもたれている羅漢、龍を降す羅漢、虎を伏す羅漢、侍従を伴った羅漢、信徒を連れた羅漢など、全てが法衣を身に付けた坐像だが、容貌はそれぞれ異なっている。熟達した用筆に趣深い着色が美しい。題によれば、完成後は仏教寺院に奉納されたという。後に清朝宮廷の所蔵品となった。本特別展では第一軸を展示する。

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清 陳書 山静日長図
清 陳書 山静日長図
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清 陳書 山静日長図

 陳書(1660-1736)、字は南楼、号は上元弟子。晩年は南楼老人と号した。浙江の人。太学生陳堯勲の長女、海寧の銭綸光(1655-1728)に嫁いだ。山水画と人物画をよくしたが、特に花鳥草虫の絵を得意とした。長男の銭陳群(1686-1774)の身分が高かったことから、太淑人の誥封を受けた。

 この作品には、重なり連なる山々と天を覆う松林など、植物が生い茂る夏の風景が描かれている。複雑な墨線による皴法と渲染で山体が描いてあり、筆を寝かせた点苔で埋め尽くされている。連綿とした筆意も清代初頭の山水画の名家王翬(1632-1717)から取られている。

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清 于氏 繍御製楽寿堂詩意図
清 于氏 繍御製楽寿堂詩意図
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清 于氏 繍御製楽寿堂詩意図

 于氏(18世紀)、江蘇の人。父親は文華殿大学士于敏中(1714-1779)。衍聖公孔憲培(山東曲阜の人。孔子の72代目の子孫)に嫁いだ。著書に『就蘭閣遺稿』がある。

 この作品は、山の麓にある楼閣と庭園が刺繍で表現されており、上部に刺繍された乾隆帝の詩意に合わせて配置してある。楽寿堂は乾隆帝が母親の60歳の誕生日祝いに建てたものである。刺繍の色合いは清々しく鮮やかで、緩く太い糸を使い、同じ長さの平針繍という技法で刺繍されている。樹木の幹は先に刺繍してから着色し、老木が青々と繁る様子が表現されている。

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清 計埰 梅花
清 計埰 梅花
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清 計埰 梅花

 計埰(19世紀)、字は小娥、浙江の人。計楠(1760-1834、厳州教授、梅の絵をよくした。)の孫。同里の王氏に嫁いだ。孫古杉に詩を習い、書画もよくして、閨中三絶と讃えられた。

 こぼれるように咲く紅白の梅の花が描かれており、梅の枝が交錯しながら伸びている。その中の一枝は薄い花青と没骨法でぼかしてあり、梅の花は淡い紅紫色で描かれている。別の枝は調合した赭墨で長く伸ばされ、丸く描いた花弁が付いている。各種技法と色彩を自在に用いた、変化に富む画面となっている。

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民国 呉淑娟 花蝶
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民国 呉淑娟 花蝶

 呉淑娟(1853-1930)、晚年の号は杏芬老人、安徽の人。同郷の者に嫁いだ。幼少から家学を学び、山水画と花卉画で名を知られた。善良で慈悲深く、絵の報酬は全て被災民の救済に当てた。著書に『吟華閣画稿』がある。

 小さな庭の一角。伸び放題の雑草や草の実に引かれて舞い降りてきた蝶が描かれている。淡い色で草や葉を直接描いてから、濃い色で葉脈が書き加えてある。正面と側面から描いた色とりどりの蝶にも没骨法が用いられている。色数は非常に多いが派手さはなく、清雅な趣がある。林誠道氏寄贈。

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民国 呉詠香 萱花
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民国 呉詠香 萱花

 呉詠香(1913-1970)、福建省出身。幼い頃から好んで絵を描いたという。北平芸専卒。斉白石と溥心畬から指導を受けた。同窓の陳雋甫(1916-1994)に嫁ぎ、美術界で話題となった。国立台湾師範大学美術系教授。

 この作品は、没骨画法で萱花(ワスレグサ)が描かれている。細長い葉が繁る中から伸びた1本の茎に花が咲いている。満開の花もあれば、つぼみもある。花の形は美しく、翻る葉が様々な姿を見せている。筆の運びは素早く、ぼかしや飛白、いずれも自然で生気に満ちている。萱花のオレンジ色も調和的で、熟達した画技が見て取れる。

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