自然生姿態─于右任書法作品特別展,展覧期間 2017年6月1日至8月27日,北部院区 第一展覧エリア 105,107
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展示概要

 于右任(1879-1964)、陝西三原(現在の陝西省咸陽市三原県)の人。本籍は涇陽県。本名は伯循、字は誘人、後に右任を名とし、晩年は太平老人と号しました。近代の重要な書法家の一人であり、政治家でもあります。早年は私塾の師に啓発されて伝統的な帖学を中心に学んでいましたが、民国初期─陝西靖国軍総司令を務めていた頃に広く碑石を収集したことから、北碑の書法に強く惹かれるようになりました。この時期に独特の碑体書風が徐々に形成されたのです。于右任の碑体書法は意図して力強く荒々しい線を用いることをせず、殊更に奇抜な結字(文字の形)を求めたわけでもなく、ごく自然に宏量かつ素朴な味わいのある大らかな気風が備わっており、清代末期から民国初期にかけてしだいに停滞していった碑学書法に新たな局面を切り拓きました。

 于右任は民国20年(1931)に上海で草書社を設立し、歴代草書の整理や研究に従事したほか、標準草書の書写と普及にも力を尽くしました。こうした活動を通して人々の労力を軽減しただけでなく、本来必要とされた時間も短縮し、国家としての競争力を増強できればと期待してのことで、これには儒家の「経世致用」という思想が反映されています。碑体書法から標準草書へと大きな変化を遂げた点は、若い頃に革命に身を投じた開拓精神にも呼応しており、現代における草書の新たな意義と方向性を導きました。また、「自然に反してまで美を追求しない」という書写観は、于右任の草書を最もよく表していると言えるでしょう。文字一つの点画、線や結構、行気(文字間や行間の繋がりや流れ)や章法など、全てがあるべき形で絶妙に表現され、自然の流れに沿った書学の極みとも言える境地に到達しています。

 この度の特別展では、国立故宮博物院が購入した作品と寄贈作品を合わせて展示いたします。来台以前の書蹟も多く含まれており、于右任の碑体書法と草書体─二大書風に見られる芸術上の成果をあますところなくご覧いただけます。于右任の交遊関係は幅広く、その書を求める者も途切れることなく次から次へと現れ、于右任自身も精力的に創作したため、大量の作品が残されています。展示作品は書風の変遷を主軸として、作品の種類─友人への贈り物や日課として書いた作品、家伝の名作などに分類されています。社会的な繋がりや物質文化、書風の変遷など、多元的な視点からの分析を行うと同時に、于右任の書法の成果と文化上の意義を改めて考察します。