于右任の書法の変遷は3期─帖学と碑学、草書に大きく分類できます。帖学時期の作品はやや少なく、30歳頃から碑学の段階に入り、50歳中期以降から草書の時期になります。本院所蔵品は50歳以降の作品が多く、その書法の成果の極みとも言える二大書風─碑体と草体が含まれます。碑体作品の随所に魏碑楷体の影響が見られ、結体(文字の形)の上部は大きく、下部は小さく書かれている文字が多く、点画の線を見ると、刀刻への過度なこだわりやかすれて判別困難な文字など、碑体書法が陥りがちな問題点は見られず、逆に自然で生き生きとした筆法となっており、力強く重厚な丸みのある線が硬さのある碑体に斬新な生命力を与えています。標準草体の整理と書写に全力で取り組んでからは、碑体の重要な結構部分が弱まって線が表現の核心となり、思いがけず点画に質感や奥行き、多彩な変化が生じました。これらは作品を仔細に鑑賞してこそ理解できるもので、于右任の書法の美妙と非凡な成果がおわかりいただけるでしょう。