:::

南巡出発前の準備

 行李の中身を記した目録は失われてしまったかもしれませんが、『清高宗御製詩文集』と『南巡盛典』の一部に皇帝が巡幸中に鑑賞し、題詠した作品についての記述が見られ、200年ほど前に行われた南巡の際に行李に収められた、当時は存在していた書画作品を知ることができます。それらの作品の選出と南巡の行路、名勝の由来には深い関わりがあります。現在は「南巡紀程図」など、現代の観光ガイドブックに似た文献に関する研究も少なくありません。6度行われた南巡の出立前夜に乾隆帝が書いた題跋や詩文を見ると、期待を抑えきれずに興奮した様子がうかがえます。

清 董邦達 西湖十景

  1. 形式:卷
  2. サイズ:41.6 x 361.8 cm

 乾隆帝が南巡前に江南を訪れたことは一度もなく、江南に関する知識や印象は全て関連の絵図や書籍、人に聞いた話でしかなかった。この「西湖十景」巻は南巡出発前に臣下たちが用意した様々な江南旅行案内書の一つである。董邦達(1699-1769)による絵図は「十景」と名付けられてはいるが、54箇所もの名所が記されている。西湖の景勝は5倍以上に増やされており、「観光ガイドブック」そのものである。南巡に出立する一年前(1750)に書かれた乾隆帝の題跋を見ると、この絵図に強く興味をそそられた様子が伝わってくる。来春の南巡時に名高い西湖の美しさを自ら体験し、実際の風景と画境を見比べ、確かめたいと考えている。詩句からは西湖旅行への期待が感じられる。

清 董邦達 西湖十景