展示作品解説
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明 文徴明 聴泉図 軸
故畫001333
紙本一筋の川が疎林や丘陵を通りながら遠方から近景まで流れ下っている。背景には雲霧が立ち込め、まばらな林がだんだんとその中に埋もれている。岸辺には赤い衣服をまとった士人が腰を下ろしており、身体を少しばかり川の方へ傾けて流れる水の音に耳を澄ましている。画幅の上部に作者の文徴明(1470-1559)による題詩と款識がある。「空山日落雨初收、煙樹沈沈水乱流。独有幽人心不競、坐聴寒玉竟遅留。」─澄み切った清流を玉の冷たさに喩えて表現している。雨上がりの夕暮れの風景が描かれており、山中の隠者は名利を求める争いから遠く離れ、山林の静けさに満ちた雰囲気をただ一人味わいつつ、忘我の境地に達している。年齢に関わりなく文徴明と親しく交わっていた王守(1493頃-1550)と王寵(1494-1533)兄弟の題詩も画上に見える。この作品と本院所蔵のもう一幅の作品「春山煙樹図」を比べて見ると、樹木の描き方や全体の雰囲気にかなり近いものがある。文徴明が50歳頃に描いた作品である。
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明 李士達 坐聴松風図 軸
故畫000609
絹本
重要古物李士達(1550頃─1621)、呉県の人(現在の江蘇省蘇州市)。万暦2年(1574)に進士に及第。山水画をよくした。この絵は万暦丙辰(1616)秋に描いた作品。李士達は山水画に5種の特質「蒼・逸・奇・遠・韻」を求めた。この絵の前景には奇妙な形の松が4株描かれており、一人の文士が膝を抱えて松と岩の間に腰を下ろし、のんびりした様子で松風の音に耳を傾けている。少し離れた所にいる童子は斜面で芝を採っているらしい。しゃがんで書物を開いている者もいれば、炉に火を起こして茶の支度をしている者たちもいる。岩の上に風炉や黄泥茶壷、赤い漆塗りの茶托、白磁の茶碗、水瓶などの茶道具が置いてある。全体に静謐な美しさがあり、世の喧騒から遠く離れ、松風の音を聴きながら茶を味わう楽しみが表現されている。