華夏美術に見られる自然観─唐奨故宮文物精選特別展,展覧期間 2016年9月22日~12月22日,北部院区 105.107 会場
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人々と自然

老子の『道徳経』に「域中に四大あり、而うして人はその一に居る。人は地に法り、地は天に法り、天は道に法り、道は自然に法る。」とあります。遠い昔から人々は自分たちが自然の一員であることを認識して、自然から学びながらその中で暮らし、観察や模倣、理解、敷衍を通して、自然と一つに溶け合う調和的な境地へと達したのです。天上の紫微垣(古代天文学の一区画)を模倣して設計された宮城地図や、月の満ち欠けに合わせた鍼灸の禁忌、星の動きを読む占術、病気の治癒や身体強健によいとされる昆虫や草花、鳥獣の姿を真似した運動法、自然の美しい色合いや質感、図案を模した磁器や文具のほか、庭園や田園の風景を主題とした詩文や書画などが多数あります。自然の再生と自然への回帰という理想的境地と自然への強い思いが感じられます。様々な芸術表現からは、自然に学び、自然と関る人々の姿が垣間見えます。これは、人々と自然界の万物が互いに支えあい、共存してきたことを示すよい例だと言えるでしょう。

黃帝蝦蟇経

  1. 撰人不詳
  2. 日本文政六年敬業楽群楼刊衛生彙編本
  3. 外枠サイズ:18.2x13.6 cm
  4. 書冊サイズ:26.5x17.5 cm

『黄帝蝦蟇経』の成書時期は漢代以降と思われる。『隋書・経籍志』に記載されている『黄帝蝦蟇経忌』とは本書のことであろう。「蝦蟇」(ヒキガエル)は、「蝦蟆」または「蛤蟆」、「蟾蜍」とも言う。本書は最早期の中医(漢方)理論の著作「黄帝内経」を理論的な基礎とし、それに日月の変化と陰陽刑徳観を結び付け、気血(生気と血液)の増減は月の満ち欠けにより規則的に変化するとしている。病気治療や長寿によい鍼灸術は、夜毎に変化する月の中のウサギとヒキガエルに合わせて針を刺すツボを調整しなければならず、五臓の治療も四時と五行が忌避する箇所に合わせなければならないという。鍼灸禁忌を解説した、現存する比較的早期の専門書である。

黃帝蝦蟇経

宋 許道寧 松下曳杖 冊

  1. 24.2x25.3 cm
  2. 絹本着色

青々と繁る竹と幹の曲がった松の古木が湖のほとりに木陰を作っている。松の下には小路から出てきた隠者がいて、杖を手に松や竹の葉のそよぐ音に耳を澄ましているように見える。水辺の野趣ある風景は爽やかで心地よさげに見える。この作品は構図が緊密で、画面全体で風が表現されている。松や竹、草、枯れ枝、士人の衣服、被り物と帯が風に吹かれて一方向へ揺れている。双鉤墨筆で描かれた松や竹などの植物も人物も生き生きと自然に描写されている。松と竹、人物などの画風は劉松年にやや近く、南宋後期にその影響を受けた作品だろう。許道寧(11世紀頃)、河北河間(現在の河北省河間市)の人。もともとは都で薬売りをしていたが、街角の人物を巧みに描いたとされる。その後、華山を旅してから山水画に転じたという。

松下曳杖

北宋 汝窯 青磁蓮花式温碗

  1. 高さ10.4 cm 口径16.2 cm 高台径8 cm

支焼法で焼成された蓮花式温碗。全体にたっぷりと釉が施されている。青釉の色を見ると、淡い水色にうっすらと青みが混じり、部分的に微かな桃色の光沢がある。釉の表面に茶色の貫入がびっしりと入っている。高台はやや高めで、底に支釘の跡が五つ残されている。河南省宝豊県清涼寺窯跡からよく似た磁器標本が出土している。焼き物の焼成法は「墊焼」と「支焼」の2種が同時期に行われていた。温碗と注壺は宋人が日常的に用いた酒器で、遼墓壁画と「文会図」にも同様の器が描かれている。南宋窖蔵で出土した銀製の器物を見ると、模倣の対象だった器の原型にまで遡ることができる。柴窯は貴重品だったため、汝窯の釉色が「雨上がりの青空」の代表とされるようになった。こうした表現から、文人の鑑賞家が釉色の変化を自然現象に喩えて評したことがわかる。

青磁蓮花式温碗