華夏美術に見られる自然観─唐奨故宮文物精選特別展,展覧期間 2016年9月22日~12月22日,北部院区 105.107 会場
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はじめに─自然による啓示

上古時代の人々は天地の運行を観察して、この世界にもたらされる影響や変化を少しずつ理解しました。そして、人と自然が溶け合うように暮らす、独特の関係が形成されたのです。古代の聖王伏羲は「仰いでは象を天に観て、俯しては法を地に観て、鳥獣の様子を観た。」と伝えられています。ここから八卦が作られ、自然現象のあらゆる動きが八卦で象徴されるようになりました。周文王が編纂した『易経』は、八卦を基礎としてこの世の万物の発展が陰陽の変化によって表されています。この思想が古代の哲学や宇宙観の発展にも繋がりました。漢字の構造も自然の影響を受けました。黄帝の史官だった倉頡が象った自然の事物の形を元に文字が誕生したと言われています。「天人合一」という古代思想は更に一歩進んで宇宙と人類を一体と捉え、天象の観測を通してこの世の動静を予知することができ、人々の行為もまた天象に影響を与えるとしました。古代の人々は知恵を絞って環境に順応しながら、天地運行の法則や万物共存の道を体験から理解していったのです。そこから天と地と人─三才調和の思想が生まれ、中華文化の永続的発展の大切な基礎が築かれたのです 。

明 仇英 伏羲氏

  1. 画帝王道統万年図 冊(第1開)
  2. 32.5x32.5 cm

仇英(1494頃-1552)、江蘇太倉(現在の江蘇省太倉市)の人。字は実父、号は十洲。もとは漆職人だったが、後に周臣に学んだ。様々な題材の絵画をよくし、明四大家の一人に数えられる。

この作品は『画帝王道統万年図』冊に収録されている。極めて熟達した筆致が見られ、青緑の濃厚な着色が施されており、細緻華麗な風格が漂う。画中の伏羲は水辺にあぐらをかいて座っている。地面には八卦の図が描かれている。伏羲は人類の祖先と言われる伝説上の人物で、古代の人々に漁業や狩猟、牧畜などを教えたと伝えられ、八卦の創始者とも言われる。八卦は、乾、兌、離、震、巽、坎、艮、坤─八つの卦によって天地と自然の運行を象徴するもので、後にこれを基本的な概念として『易経』が誕生し、天文地理や哲学思想がより一層豊かなものとなった。

伏羲氏