「皇姉図書」とは、祥哥剌吉公主所蔵の書画作品に鈐印された印章のことです。至治3年(1323)3月暮春に公主が開催した雅集は伝統的な蘭亭風の雅集にかなり近く、様々な民族の士人が招待され、公主所蔵の書画作品を鑑賞する機会を得ました。この雅集で披露された書画作品は元代の文人袁桷曽によって記録され、1冊41点の作品リストとして残されています。また、ほかの元人による題跋や現存作品上の印章も整理され、公主の収蔵品は少なくとも50点以上あったことが確認されています。これらの作品は本院所蔵の書画作品も多数含まれており、今回はその中から代表的な作品を展示し、公主コレクションの一面をご覧いただきます。
前期は黄庭堅の「自書松風閣詩」を展示いたします。この詩は黄庭堅が崇寧元年(1102)に武昌を通り過ぎた時に詠まれた作品です。遊歴中に目にした事柄のほか、蘇軾などの親しい友人への思いや懐かしさが述べられています。全て行書で書かれており、精美な筆墨に優雅でありながら生き生きとした表現が見られ、黄庭堅の書法の美が十分に発揮された、北宋文人芸術の代表作でもあります。この作品は元朝廷に持ち込まれてから大長公主(皇帝のおば)祥哥剌吉の収蔵品となりました。巻首には「皇姉図書」の印があります。公主が天慶寺で行った雅集には異民族の士人も若干名招待されましたが、その者らにもこの作品が披露され、巻末に李泂や張珪、王約、馮子振、袁桷などの題跋が残されています。これら巻末の諸題を通して雅集の情景をうかがい知ることができます。後期に展示する李唐の「江山小景」の巻末上方にも公主の所蔵印の残印があります。
公主が収蔵した書画作品の題材は多岐に渡り、書法の名跡はもちろんのこと、花鳥画や界画などもあります。特に宗教を題材とした作品は注目に値するでしょう。南宋の劉松年の「画羅漢」は2点とも画幅に公主の所蔵印「皇姉図書」があります。羅漢画の伝統には南宋宮廷の精緻な風格が感じられ、この時代の作品を代表するものだと言えます。元代の画家である王振鵬の作品は公主所蔵品の中では数少ない同時代の画家のもので、「龍池競渡」はこの種の画風の全体像を掴むための基準ともなる作品です。