筆墨は語る─中国歴代法書選,展覧期間  2019.01.01-03.25,会場 204、206
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展示概要

 書法とは、漢字文化圏特有の芸術であり、古くから中国文化の伝統の中で体系化され、日常生活にも深く根付き、古今を通じて人々に親しまれています。古より今に至る中国書道史発展の過程には、多くの人々が深い関心を寄せており、この度の特別展はそれらをご覧いただくために企画されました。

 秦漢時代(前221-220)は書道の発展における重要な転換期です。まず夏、殷、周三代以来、枝分かれしていた古文と大篆、銘刻が統一され、標準的な書体─小篆が誕生しました。一方、春秋戦国時代に登場した隷書は篆書が簡略化されつつ成熟し、漢代には一般的な書体となりました。簡略化を推し進める風潮が盛んになるにつれ、隷書も変化と分化を繰り返し、その結果、草書と行書、楷書が生まれました。書体は絶えず変遷を繰り返し、魏晋南北朝(220-589)に至ると、過渡的な書風や書体の入り混じった表現が現れるなど、長い年月をかけて変化する中で、結体や筆法が自ずと規律化されていく様子が見てとれます。

 続く隋唐時代(581-907)も重要な時期の一つにあたります。政治上の統一によって南北各地の書風が合流し、筆法が完成され、楷書が歴代を通じて使用される書体となりました。宋代(960-1279)以降、著名な書家の書蹟を後世に伝えるため、法帖が盛んに作られるようになりました。しかし宋代の書家は古典の継承だけでは飽き足らず、自分の個性や自然の趣を表現しようとしました。

 元代(1279-1368)に至ると、復古が提唱され、晋唐時代の書法の伝統が継承された一方、伝統に束縛されない意識もしだいに高まり、明代(1368-1644)になると、縦横に筆を揮う奔放な書風が登場しました。明人の書は非常に多彩な様相を呈し、行草書の表現は特に自由奔放で、当時のあくまで伝統に則った書法と対比をなしています。その間に個性を発揮して自らの書風を確立した書家も時代の波に呑まれることなく自己表現の道を歩みました。

 清代(1644-1911)以降は、三代及び秦漢時代の古文や篆書、隷書などが相継いで出土しました。これは書法にとっては天の恵みだったと言えましょう。実証的な考証学が勃興する中、書道界にも金石学が興り、刻石と法帖を照らし合わす事によって、書法の発展に古今の繋がりが見出せるようになったばかりでなく、篆書と隷書から古きを学びつつ新しい創造を目指すことが可能となり、新たな方向性が導き出されたのです。

展示作品解説

元 陳修

七言律詩

  1. 形式:冊頁
  2. サイズ:31.6x45.4 cm

 陳修(14世紀中頃)、1371年に吏部尚書に任ぜられる。明代初頭の能臣。
 七律一首が書かれた1364年の作品。杭州浄慈寺清遠渭公(1317-1375)に届けられ、同寺の懶庵廷俊(1299-1368)と霊隠寺用貞原良(1317-1371)を含む3名に贈られた書で、三人に従遊した際の歓びが記してある。多くの字形がやや方形になっており、線には蘭の葉の如く優美な流動感があるなど、趙孟頫(1254-1322)の風格を継承している。そうした中に鋭利な線と細勁な筆致が溶け合っており、わずかだが角ばった転折箇所に章草の筆法が見られる点は宋克(1327-1387)に近く、時代の特徴を色濃く表している佳作である。

明 董其昌

周子通書

  1. 形式:軸
  2. サイズ:189.4x154.5 cm

 董其昌(1555-1636)、傑出した書画家で、鑑定にも優れていた。明代晩期以来、董其昌の書画作品や美学思想、芸術史観は現在まで大きな影響を与え続けてている。
 1611年に書かれたこの作品には、周敦頤(1017-1073)が論じた、人は如何にして学問をもって聖人に至るかの一節が書かれている。欧陽詢(557-641)と顔真卿(709-785)の楷書の風格が取り入れてあり、線は太く丸みがあり、字形は端整だがやや細長い。濃墨と飛白の対比が提按のリズムを表現し、観る者に豪邁だが洗練された趣を感じさせる。

宋 高宗

賜岳飛批剳卷

  1. 形式:卷
  2. サイズ:33.8x72 cm

 北宋高宗(1107-1187)、名は構、南宋を開国した皇帝。黄庭堅(1045-1105)から二王まで遡って書を学び、独自の風格を築いた。
 これは1141年4月27日、岳飛(1045-1105)が出陣する際に、その他の武官と協力して金の皇族兀术(?-1148)を捕らえるよう、奮起を促した書信である。書法は1137年の「賜岳飛手敕」と同様、王羲之(303-361)の「蘭亭」と「集字聖教」の風格を直接継承している。長文だが運筆は非常に速く、転換と変化が多い。厳正な行気(文字間や行間の繋がりや流れ)と章法のうちに、充分な力量と洗練された風韻が見られる。
蘭千山館寄託。

左監門大将軍樊君碑

  1. 形式:軸
  2. サイズ:190.4x95 cm

 この碑は650年に建立された。碑主の樊興(588-650)は唐開国の功臣で、輝かしい戦功を立てたことにより、死後は唐高祖献陵に陪葬された。書風が褚遂良の「雁塔聖教序」(653年)に近いため、褚遂良作とみなす者もいる。行書を帯びた楷書で、筆画の中段は細く軽快な感があり、円弧状となっている。起筆と収筆は筆の上げ下げが露わになっており、運筆の際に残された三角形の跡が見える。意図的に隷書の筆法が交ぜてあり、剛強さと秀麗な美が備わっている。字形は片寄ることなく端正で、線の間の空白も均整が取れており、大らかで伸びやかな風がある。譚延闓(1880-1930)が「後世にこれほど上手く褚遂良の書を臨模できた者はいない。」と評している通りである。

南朝 梁武帝

異趣帖

  1. 形式:卷
  2. サイズ:26x7.5 cm

 この帖は草書に章草の筆法がやや見える。仏教の言葉が書いてあるが、前後が欠けている。明代晩期以前の記載は見当たらないが、董其昌(1555-1636)が「戯鴻堂帖」に刻したことで世に知られるようになった。名款はなく、董其昌は梁武帝(464-549)の書とし、王肯堂(344-386)は王献之(344-386)と題している。しかし、董其昌が見たのは冷金紙に書かれたもので、細い筆画に幅広の字形と、伝世の墨蹟とは異なっている。よく見ると、薄墨と濃墨を使って2度書きしてあり、草法にも誤りがある上、続け字の線も不自然である。18-19世紀の間に、京都市の藤井斉成会有鄰館が所蔵する「異趣帖」を参考に複製されたものではないかとの指摘もある。今後の研究が待たれる。
 王雪艇氏寄託。

展示作品リスト

朝代
作者
品名
形式
潘乾校官碑墨拓本
南朝梁
武帝
異趣帖
北魏
故光州剌史貞侯高慶碑
左監門大将軍樊君碑
釈夢英書張仲荀抄高僧伝序
元祐党籍碑
高宗
賜岳飛批剳
晏褒
釈東漢鄐君開通褒斜道摩崖並記
楊維禎
書晚節堂詩
元;明
詞翰卷(楊基書憫独賦;王逢書五言古詩;宋克書五言古詩)
陳脩
書七言律詩
方孝孺
書黙菴記
沈周
化鬚疏
董其昌
周子通書
王鐸
擬古帖
劉墉
八十精品