「唵嘛呢叭咪吽」-この観音菩薩の六字大明呪はチベット仏教を信仰する地域において知らぬ者はないと言われるほど、チベット仏教における重要なシンボルです。チベット仏教はチベット地域で形成され、布教と修学には主にチベット語を使用し、中国に伝わった北伝仏教と並んで大乗仏教における二大系統の一派とされています。その教えは大乗を中心としながら小乗も学び、顕教の理論を理解し後に密教を修めるという顕密併修であり、即身成仏を追求しています。
チベット仏教が中国に伝わったのは、元王朝の初代皇帝であるクビライがラマ(チベット仏教の高僧)を尊崇したことに始まります。明代と清代には政治的要因、或いは宗教上の信仰により、上は皇室・王侯貴族から下は庶民までラマを崇拝し、誰もが灌頂を受けチベット仏教に帰依しました。仏像の絵画や彫像の制作、真言を唱え観想を行うなどの修行、寺院の建立などが盛んに行われ、中でもチベット仏教経典の翻訳と刊行は国の一大仏事でもありました。
当博物院が所蔵するチベット仏教の関連文物は極めて豊富であり、本展覧ではチベット語の《龍蔵経》を展示の中心に据え、経典や書画、法器、金銅仏像などその他の文物を六つのコーナーに分けて展示します。「無二至宝」では《龍蔵経》の装丁に使われた付属品を展示し、「三転法輪」では《龍蔵経》の内容をご紹介します。「訳伝四海」ではチベット語の仏典から漢語、満州語、モンゴル語に訳された経典、「漢地蔵音」ではチベット仏教の経呪を収録した漢文図書をご覧いただきます。また、「五部聖衆」では《龍蔵経》の経板に描かれた図像のほか、金銅仏、法器、絵画などを諸仏、菩薩、護法など五つに分類して展示し、最後の「卓尼留珍」では複製した卓尼版《甘珠爾》を収めたチベット仏教の蔵経閣を再現します。
当博物院が所蔵するチベット仏教の文物は豊富かつ貴重であり、本展覧はその中でも素晴らしい作品を選りすぐり展示しております。これらの文物を通し、チベット仏教の特色を垣間見ることができるでしょう。