范寛(950頃-1031の間)は北宋時代に活躍した山水画の大家です。本籍は華原(現在の陝西省銅川市耀州区)で、本名は不詳、字は中立です。本名は中正で字は中立だったという説もあります。范寛は度量が大きく温厚な人柄だったので、関中の人々は「穏やかで寛大な人物」という意味で「范寛」と呼ぶようになりました。絵画を学び始めた当初は李成(916-967)や荊浩(10世紀)の絵画を学びましたが、その後、長年に渡る自然観察を通して独自の画風を確立しました。国立故宮博物院所蔵の「谿山行旅図」は、范寛作とされる現存山水画の中で最も信頼できる真跡だと考えられています。この作品の構図は「近・中・遠」─大きく三段に分割されており、遠方に聳える主山から引き寄せられるように現れる中景、近景に小さく描かれた旅人と高大な主山の対比を突出させる手法によって、雄壮広大な風景が眼前にあるかのようなイメージが巧みに表現されています。よく見ると、画面右下隅の樹木に「范寛」の署名が隠されています。
もう一幅の作品「臨流独坐図」に作者の名款はありませんが、同じく范寛の画風を有する大作だとされています。山頂に隙間なく生い茂る樹木、濃い墨で輪郭を取った山石、水辺に突出する大きな岩石などの特徴は、「谿山行旅図」と共通していますが、皴法の筆遣いだけはやや規律化された側鋒の小斧劈となっているため、制作時期は李唐(1070頃-1150以降)に近いと思われます。
この度の特別展「典範と流伝」では45幅の画作を展示いたします。作品の性質によって、「谿山行旅図の継承」、「范寛作とされる作品」、「范寛の画風が及ぼした影響」─三つのコーナーに分けて展示を行います。范寛とその後に続く歴代画家による同名模写作品のほか、「雨点皴」や「礬頭密林」(小ぶりの山石と密集する樹木)など、范寛独特の画技が見られる作品を系統的に整理して、范寛の風格がどのように継承されていったかをご覧いただきます。展示作品の内、「谿山行旅図」と「臨流独坐図」は展示制限があるため、前期と後期に分けて展示いたします。