杏林春暖─書画に見られる古代の医療と健康意識 特別展,展覧期間:2018.07.01-09.25,会場:204、206
杏林春暖─書画に見られる古代の医療と健康意識 特別展,展覧期間:2018.07.01-09.25,会場:204、206
杏林春暖─書画に見られる古代の医療と健康意識 特別展,展覧期間:2018.07.01-09.25,会場:204、206
杏林春暖─書画に見られる古代の医療と健康意識 特別展,展覧期間:2018.07.01-09.25,会場:204、206
杏林春暖─書画に見られる古代の医療と健康意識 特別展,展覧期間:2018.07.01-09.25,会場:204、2066
杏林春暖─書画に見られる古代の医療と健康意識 特別展,展覧期間:2018.07.01-09.25,会場:204、206
:::

展示概要

 昔の人々が記した祝いの言葉には「福」や「寿」、「康寧」という言葉が多く使われています。心身ともに健康で長生きすることは、古くから人々が願ってやまない理想の一つでした。人々の暮らしが反映された書画作品にも、このような願いがしばしば見られます。

 不老長寿を叶える仙丹と死者を蘇生する妙薬─伝説の薬は夢のようなものでしょうが、神話的な色彩に彩られた、ユニークな主題として書画作品にもしばしば登場します。この世に不死の薬などはありませんが、先人たちの智慧は私たちに長寿の秘訣を伝えてくれます。この度の特別展では、「煉丹」と「医薬」、「伝統的な養生術」─三つの主題に分けてご覧いただきます。明代仇英の風格が感じられる「玉洞焼丹図」巻、「服気」により精神力を養う養生法「黄庭経」、按摩法の口伝に近い「神仙起居法」のほか、「清虚静泰、少私寡慾」であることを重んじた魏晋の名士嵇康の著作─精神を出発点とする「養生論」などの展示を行います。このほか、瑾妃(清光緒帝の側妃)が起居した永和宮の旧蔵品─身体運動と「吐納」(呼吸法)を結び付けた体操「八段錦図冊」、120種を超える漢方薬名を繋げて書かれたユニークな短文「桑寄生伝」も合わせて展示します。

 このほかに注目していただきたいのは、国宝指定の名作─宋李唐「炙艾図」軸です。在野の医師が病人に灸治療を行っている様子を描いた作品で、もぐさの熱さに驚き、慌てて逃げようとする患者の姿が生き生きと描かれています。同じく漢方薬を題材とする作品に、江南一の才人唐寅が肺の病を治してくれた医師のために描いた「焼薬図」があります。この特別展を通して古今の距離を縮め、古代人の工夫やこだわりだけでなく、現代人も関心の高い健康増進というトピックをご観覧の皆さまにご紹介します。

展示作品解説

清 無款

八段錦冊

  1. 形式:冊
  2. サイズ:23.9 x 14.5

 八段錦と太極拳は中国民間に広く伝わる健身法(健康増進を目的とする運動)である。文献に見られる類似の身体鍛錬法は、魏晋の著名な道士許遜(249-347)の著書『霊剣子引導子午記』にある記述が最も早い時代のもので、この書には宋代道教の養生書も並録されている。
 8種の功法の組み合わせからなる八段錦には、身体運動のほかに呼吸法もあり、起立または着座して行う。立ったまま行う動作は両足を肩幅に開き、着座して行う動作はあぐらをかくようにして床に座る。「舌抵上顎」(舌先を上顎につけること)や「意守丹田」(へその下にある丹田に意識を集中させること)などにも気を配りつつ、各動作を何度も繰り返して行う。この度の特別展では、立った姿勢で行う動作を収録した八段錦冊を展示する。この冊には清朝宮廷千字文の1字「歳」の標号があることから、清光緒帝の側妃であった瑾妃(1873-1924)が起居した永和宮に収蔵されていたことがわかる。

清 王澍

書積書巌帖(四十六) 冊 臨楊凝式神仙起居法

  1. 形式:冊
  2. サイズ:36.7 x 42

 王澍(1668-1739)、字は若林、江蘇金壇(現在の江蘇省常州市金壇区)の人。康熙51年(1712)に進士に及第、官は吏部員外郎に至った。「積書巌帖」六十冊は、古帖を臨模し題識の考証も行った力作である。
 この度の特別展では、戊申(1728)の臨書「楊凝式神仙起居法」を展示する。楊凝式(873-954)、字は景度、号は虚白、陝西華陰(現在の陝西省華陰市)の人。唐昭宗朝進士。梁から唐、晋、漢、周朝に仕え、官は太子少師に至った。楊少師とも呼ばれた楊凝式は書法を好み、特に顛草に優れていた。晩年の代表作である『神仙起居法』は「神仙起居功」とも称され、口語に近い文体で古代の按摩法について記してある。現在は北京の故宮博物院に所蔵されている。

明 祝允明

臨黄庭経

  1. 形式:卷
  2. サイズ:21.3 x 73.3

 祝允明(1460-1526)、字は希哲、号は枝山。江蘇蘇州(現在の江蘇省蘇州市)の人。5歳の頃には一尺ほどの大字が書けたと言われ、各書体に精通していたが、特に狂草で知られる。
 この巻は「黄庭経」を小楷で臨書したものである。「黄庭経」は道教の修養法が記された重要な経典であり、服気により精神を養うことを主旨としている。人体の五官や臓腑の作用が韻文で説明されており、存神内観、固精練気によって黄庭を満たすことを続ければ、長寿が得られるという。ガチョウを愛した書聖王羲之も「黄庭経」を書き、それを山陰道士所有のガチョウと交換したという逸話が残されている。現在まで伝わる小楷の黄庭経は、宋代に模刻したものの拓本で、規則に則った謹厳な書体に俊逸な味わいがあり、楷書学習の手本にされることも多い。

明 唐寅

焼薬図

  1. 形式:卷
  2. サイズ:28.8 x 119.6

 唐寅(1470-1524)、呉県(現在の江蘇省蘇州市)の人。字は伯虎、号は六如居士。弘治戊午年(1498)に南京の郷試で解元となる。詩文と書画、いずれにも優れ、明四大家の一人に数えられる。
 2株の松の下に薬師が腰を下ろしている。手前にいる童子は団扇で炉の火をあおぎながら薬を煎じている。簡潔な表現だが、人物の表情や姿は生き生きとしている。捻じ曲がった松の幹や山石の用筆には溌剌とした感がある。水墨で淡くぼかされた松葉と遠山が自然の潤いや活力を表現し、「焼丹煉薬」(薬作り)という含意がより鮮明になっている。唐寅は晩年、肺の病を患っていた。巻末の自題と、拖尾に見える祝允明が書した「医師陸君約之仁軒銘」を見ると、唐寅が医師の陸氏に薬の礼として描いた作だとわかる。49歳前後の作品であろう。

宋 李唐

炙艾図

  1. 形式:軸
  2. サイズ:68.8 x 58.7

 この「炙艾図」は李唐(1049頃-1130以降)の作と伝えられ、各地を巡る在野の医師が医術を施す様子が描かれている。頭髪に医療器具を挿した医師が、赤く腫れあがった患者の背を、火をつけたもぐさで治療しようとしている。悲鳴をあげてもがく患者をじっとさせようと、助っ人の3人が患者の足を踏みつけ、手を引っ張り、肩を押さえつけている。目の前の惨状に耐える3人とは対称的に、医者の右側にいる、膏薬の幟を背に挿した助手は薬に息を吹きかけて、患者に塗る膏薬の用意をしている。
 全体に用筆、着色ともに写実的な筆致で丁寧に描写されており、南宋時代の生活風景を描いた院体画の傑作だと言える。人物の表情が誇張気味に、生き生きと表現されており、田舎暮らしの一場面がユーモラスに描かれている。

晋 王献之

腎気丸帖

  1. 形式:冊
  2. サイズ:26.5 x 31.1

 王献之(344-386)、字は子敬、本籍は琅琊(現在の山東省臨沂市)。書聖王羲之(303-361)の息子。書法では父と並んで「二王」と言われる。
 王献之による行書の筆札「腎気丸帖」(『淳化閣帖』所収)には、「腎気丸」と「黄耆」の効果についての所感が記されている。「八味地黄丸」とも言われる腎気丸は、後漢の医聖張仲景(150頃-219)の著書『傷寒雑病論』の処方から作られたもので、中国医学経方派でよく知られる処方の一つであり、古くから重んじられ、幅広く応用されている。今日、よく目にする「六味地黄丸」と「杞菊地黄丸」(明目地黄丸とも言う)は、どちらも腎気丸から派生的に誕生した薬である。

展示作品リスト

朝代
作者
作品名
形式
サイズ (cm)
王献之
淳化祖帖(九) 冊 晋王献之書腎気丸帖
26.5 x 31.1
李唐
宋李唐炙艾図 軸
68.8 x 58.7
祝允明
明祝允明臨黄庭経 卷
21.3 x 73.3
唐寅
明唐寅焼薬図 卷
28.8 x 119.6
仇英
明仇英玉洞焼丹 卷
30.5 x 357.4
董其昌
元明書翰第二十四冊 冊 董其昌書桑寄生伝
29.1 x 36
王澍
清王澍書積書巌帖(四十六) 冊 臨楊凝式神仙起居法
36.7 x 42
清人
清乾隆三希堂法帖(七) 冊 宋高宗真草書嵇康養生論
28 x 35.6
清人
八段錦 冊
23.9 x 14.5