昔の人々が記した祝いの言葉には「福」や「寿」、「康寧」という言葉が多く使われています。心身ともに健康で長生きすることは、古くから人々が願ってやまない理想の一つでした。人々の暮らしが反映された書画作品にも、このような願いがしばしば見られます。
不老長寿を叶える仙丹と死者を蘇生する妙薬─伝説の薬は夢のようなものでしょうが、神話的な色彩に彩られた、ユニークな主題として書画作品にもしばしば登場します。この世に不死の薬などはありませんが、先人たちの智慧は私たちに長寿の秘訣を伝えてくれます。この度の特別展では、「煉丹」と「医薬」、「伝統的な養生術」─三つの主題に分けてご覧いただきます。明代仇英の風格が感じられる「玉洞焼丹図」巻、「服気」により精神力を養う養生法「黄庭経」、按摩法の口伝に近い「神仙起居法」のほか、「清虚静泰、少私寡慾」であることを重んじた魏晋の名士嵇康の著作─精神を出発点とする「養生論」などの展示を行います。このほか、瑾妃(清光緒帝の側妃)が起居した永和宮の旧蔵品─身体運動と「吐納」(呼吸法)を結び付けた体操「八段錦図冊」、120種を超える漢方薬名を繋げて書かれたユニークな短文「桑寄生伝」も合わせて展示します。
このほかに注目していただきたいのは、国宝指定の名作─宋李唐「炙艾図」軸です。在野の医師が病人に灸治療を行っている様子を描いた作品で、もぐさの熱さに驚き、慌てて逃げようとする患者の姿が生き生きと描かれています。同じく漢方薬を題材とする作品に、江南一の才人唐寅が肺の病を治してくれた医師のために描いた「焼薬図」があります。この特別展を通して古今の距離を縮め、古代人の工夫やこだわりだけでなく、現代人も関心の高い健康増進というトピックをご観覧の皆さまにご紹介します。