華夏(中華文化圏)の美術品には実際の風景を描写した様々な作品があり、大自然に心動かされた人々が、それぞれの時代に自然から学び取ったものが記録されています。楼閣や庭園の静やかな夜や連綿と繋がる山々の絶景、うねうねと遥か遠くまで続く水辺の景色などのほか、故事や伝説もそうした景観の風韻を高めました。文人墨客による詩文や歌賦もまた自然の彩を一層鮮やかなものにしたのです。そして、美術品に描かれた実景の多くが人気の観光スポットとなり、憧れの地にもなりました。これらの風景描写は多種多様な形式で様々な素材や器物に複製が用いられて広められ、華夏芸術特有の自然に対する美意識が形作られたのです。
宋 馬麟 秉燭夜遊図 冊
- 24.8x25.2 cm
- 絹本着色
馬麟(1195頃-1264頃に活動)、馬遠之の子息。南宋寧宗(在位期間1194-1224)、理宗朝(在位期間1224-1264)の画院に奉職した画家。この作品には、小さな建物に置かれた椅子に座る白衣の文士が描かれている。文士は月光と蝋燭の灯りに照らされた海棠の花を見つめている。この絵はおそらく蘇軾の「海棠」の詩意─「東風嫋嫋泛崇光、香霧空濛月転廊。只恐夜深花睡去、故焼高燭照紅妝。」を表現したものだろう。画中に見える六角形の鋭角的な屋根を持つ亭閣は細部まで丁寧に描写されている。建物両側に伸びる回廊は杭州の宮苑ならではの眺めである。静けさに満ちた南宋宮廷の優雅な暮らしぶりが、詩文と絵画、美しい風景の融合により表現されている。
清 雍正 琺瑯彩磁虎丘山水図碗
- 高さ7.5 cm 口径16 cm 高台径6.9 cm
長江地理図
- 画家不詳
- 清順治康熙間絹本着色
- 絵図サイズ:61.5x1425.5 cm
- 表装サイズ:63.5x1807.4 cm
『長江地理図』、絹本、長巻。濃厚な着色が施された、伝統的な手書きの金碧山水画地図である。上が南で下が北、左が東で右が西になっている。長江を中心に上から見下ろすような構図で描かれており、右から左にかけて一字形に展開されている。長江水面の景物のほか、南北両岸の陸地に見える自然や文化的景観も合わせて描写されている。これは長江中下流域の地図で、江府から鎮江府の駐屯地にあたり、特に「緑営兵」を主体とする河岸の防衛線が示されている。この絵図に記されている儀真県は旧名で、後に儀徴県に改名されている。荻港営や奇兵営、儀真営、永生南営、永生北営、「茭石巡司」も存在していることから、この絵図は順治朝から康熙朝に変わる頃に描かれたものと推測される。