造形と美感,展出時間 2016年7月1日至2016年9月25日,北部院区 第一展覧エリア 210
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展示概要

中国絵画の発展史はまるで交響楽のようです。人物画、花鳥画、山水画といったジャンルに代表される様式が大きな柱となり、歴史の流れの中でその変奏曲が奏でられました。

宋代(960-1279)の山水画では、范寛や郭煕、李唐らがすでに確立されていた典範に基づいてそれまでにない画風を創造し、新たな典範となりました。その一方では、芸術を好んだ皇帝たちの提唱の下、宮廷画院がかつてないほどの繁栄を極めました。宋代の文人も芸術表現の概念を「形似」以外に拡大し、文人画の分野でも新たな風格が見られるようになりました。元代(1279-1368)の文人画では、趙孟頫や元四大家(黄公望・呉鎮・倪瓚・王蒙)が復古を目指す中でより多元的な表現が登場しました。絵画の発展史において、これらの画風がしだいに重要な様式となり、明清以後の絵画にも影響を与え続けたのです。この度の名品展では明清代の山水画を展示いたします。

明代(1368-1644)以降は地域による画風の違いや特色が、芸術文化の発展過程において大切な役割を担いました。蘇州の「呉派」が元四大家の画風を基礎として優雅な文人の画風を形成したのに対して、浙江と福建出身の画家からなる「浙派」は宮廷絵画の様式から脱却し、南宋画の典範を大胆なタッチの水墨画へと発展させました。松江の董其昌、清代初期の王時敏や王鑑、王翬、王原祁らは古典の典範が「集大成」される中で筆墨によって自然を再現し、後世に大きな影響をもたらした「正統派」を形成しました。

清代(1644-1911)の皇帝は「正統派」の画風を高く評価したのみならず、ヨーロッパの宣教師によってもたらされた西洋画法も受け入れ、立体表現や遠近法が古めかしい典範における新たな表現方法となりました。地方の揚州では、高度に商業化された市場を背景に「怪」と「奇」を標榜する画家たちが活躍しました。こうした画家たちは「非正統」の典範を出発点としていましたが、後に彼らもまた変革を追い求めた典範の一つとされたのです。

展示作品解説

五代南唐 巨然 秋山問道図

巨然(10世紀後半に活動)、南唐鍾陵(現在の江蘇省南京市)の人。開元寺の僧侶。南唐滅亡後、後主李煜に随って宋へ降り、汴梁へ移った。董源(10世紀前半に活動)に師事。巨然の描く山は丸みがある。尾根に積み重なる卵形の岩石は「礬頭」と言われる。全体に墨でぼかされた箇所が多く、山裾や樹木は汁緑が使われているが、長い年月を経て色褪せている。近景には曲がりくねりながら流れる川と小道があり、茅葺の家で隠士に教えを請う訪問者の姿も見える。静けさを湛える広大な場面に江南地方の霞たなびく山林の風景が描かれている。

北宋の蔡京(1047-1126)の収蔵墨印があるほか、明代初頭の「司印」の半印もあるが、よく見られるものよりやや小さい。

宋人 秋荷野鳧図

岩石に立つ野生の雁。嘴を少し開いて、鳴き出そうとしているように見える。左足でオオケタデを踏んでいる。翼の先をわずかに揺らして、今正に飛び立とうとしているようにも見える。背景に描かれた蓮の葉は秋を迎えて枯れ果てているが、ぱっくりと開いた蓮蓬は茎を長く伸ばしている。深浅異なる墨色と密に描き込まれた墨点によって、蓮の葉の裏表と破れた葉の縁が写実的に表現されている。

野生の雁と蓮の茎、葦の全てが右向きに描かれている。おそらく対幅の左幅だったのだろう。長い年月を経て色がくすんでしまっているが、宋代絵画特有の趣は失われていない。右下角に明代初頭の「司印」の半印がある。幾度も表装し直されて切り取られたため、枠の上半分のみとなっている。

宋 易元吉 猿鹿図

柏の老木の傍らに岩があり、それを覆うように枝が伸びている。樹上に小猿を抱いた雌猿がいて、枝先に雄猿がぶら下がっている。木の下には頭を上げてその様子を見つめる雌鹿がいる。猿と鹿の組み合わせは「封侯晋禄」(出世と加禄)の語呂合わせである。猿と鹿の毛は一本一本丁寧に描かれており、動物の姿態も見事に捉えられ、写生に重きが置かれている。岩の厚みと丸みは雲頭皴(画技の一種)で表現され、柏の葉は石緑で輪郭線の内側が塗られており、細部まで丹念に描写されている。

款印はなく、籤題が作品名となっている。易元吉(11世紀後半に活動)、湖南長沙(現在の湖南省長沙市)の人。字は慶之、猿の絵で名を馳せた。『宋元名絵』冊第六開より。

元 倪瓚 江岸望山図

倪瓚(1301-1374)、字は元鎮、号は雲林、江蘇無錫(現在の江蘇省無錫市)の人。清閟閣を建て、古書画を収蔵した。「元四家」の一人に数えられる。早年は董源と巨然から学び始め、全ての山石を披麻皴で描いていた。後に荊浩と関仝の画風に近づき、「折帯皴」という披麻皴を変化させた画技を用いるようになった。この作品は「一河両岸」と言われる構図で太湖の風景が描かれている。近景に斜面と岩石、背の高い樹木があり、折帯皴で山石が描かれている。葉の点法に変化が多い。中景の広々とした水面は余白で表現されており、遠方に山々が連なっている。

画上の題詩から、水路で会稽へ向かっている時に船から見えた両岸の風景を描いて贈ったものだとわかる。絵を贈られた人物の名は「惟允」─同時代の画家陳汝言(生没年不詳)の字が記されている。

元人 嘉禾図

古代の社会は農業が中心で、懸命に田畑を耕して穀物を生産した。この作品に描かれている稲穂は豊かに実って茎や葉もよく茂り、豊作を予感させる。画幅の中央にすっくと立つ一株の稲という主題が印象的で、独特な構図にも新鮮味がある。

用筆を見ると、稲穂だけでなく全てに花青と赭石を用いた没骨法で描かれている。穂が二つある稲は「嘉禾」と言われ、瑞祥や繁栄の象徴として描かれる。元代の宮廷画家が皇帝の命により製作した作品であろう。

明 陳洪綬 古木双鳩図

陳洪綬(1598-1652)、浙江諸暨(現在の浙江省諸暨市)の人。字は章侯、号は老蓮。順治元年(1644)以降は悔遅と自称した。人物画と花鳥画で優れた作品を残した。

葉の落ちた老木に細い枝はなく、樹上に2羽のハトが羽根を休めている。その背後に大きな葉をつけた喬木があり、根元に荊棘が生えている。古木の幹と枝は丸みがあり、篆文や籀文のようである。起伏に富んだ斜面と岩の皴法は滑らかで動感がある。綾は美しい艶がある。苔点は焦墨大筆によるもので、色遣いはごく淡い。荒涼とした秋の野趣に満ちている。

明人 内府騶虞図

永楽2年(1404)、永楽帝の長子高熾が皇太子となった。周王朱橚の領地である神后山一帯に「騶虞」が現れるという噂が立ち、その年の9月に来朝した周王朱橚が騶虞を献上したため、宮中でそれを祝ったという。騶虞は珍しい白虎だが後に神話となり、吉凶禍福を知らせる生き物と言われたため、稀に騶虞が現れると、非常にめでたいことだとされた。

この作品に描かれた山水の風景は色鮮やかで美しく、部分的に金泥で輪郭線が描かれている。細かく密に描かれた松の葉、花々と吉祥を示す瑞鳥に彩られている。この精緻な絵画は永楽朝の宮廷画家による作品であろう。

清 周鯤 升平万国図

周鯤、字は天池、江蘇常熟(現在の江蘇省常熟市)の人。家学として絵画を学び、山水画と人物画に秀でていた。乾隆2年(1737)に画院に入り、乾隆8年(1743)に病気治療のために帰郷したが、乾隆11年(1746)に復職した。

歴史ある常熟の町と城壁、虞山の名勝古跡が描かれている。復職の前年の作である。乾隆10年(1745)6月、翌年の銭糧(田賦)が全国で免除されることとなった。皇帝がこの絵を見た時、常熟の様子がよくわかるよう、常熟の秀麗な山水の風景や豊富な生産物などが細やかに描写されており、豊かに栄えた太平の世が反映されている。

清 金廷標 画仙舟笛韻

金廷標(?-1767)、字は士揆、浙江烏程(現在の浙江省湖州市)の人。父の金鴻も絵画に優れ、幼少の頃から家学として絵画を学んだ。山水画や人物画、界画を得意とした。乾隆22年(1757)、2度目の南巡が行われた際に献上した白描の羅漢冊が認められ、内廷に出仕することとなった。

川岸の岩の間、松の木の下に船が2艘泊まっている。船上の高士は横笛で合奏している。皴法による山は披麻皴に斧劈皴が合わせられ、用筆は鋭く力強い。石壁が表装の丸い枠に相対するように描かれている。岩に根を張ったがっしりした松が木陰を作り、峡谷の間を川が流れている。山石といい、人物の衣服といい、ぼかされた色あいに清雅な趣があり、斬新な構図も清々しい佳作である。

展示作品リスト

年代
作者
作品名
形式
本幅サイズ (cm)
五代南唐
巨然
秋山問道図
156.2x77.2
伝宋
趙昌
四喜図
122.8x60.4
郭熙
関山春雪図
179.1x51.2
崔白
蘆雁
138.1x52.3
王詵
瀛山図
24.5x145.1
李唐
大江浮玉 集古名絵第九開
20.8x22.2
恵崇
芸苑蔵真(下)秋野盤彫
23.7x24.9
易元吉
猿鹿図 宋元名絵第六開 
25x26.4
易元吉
喬柯猿挂 芸苑藏真(下)第六開
24.2x26.4
趙令穰
柳亭行旅 名絵集珍第七開  
23.2x24.2
林椿
杏花春鳥 宋人合璧画冊第六開  
23.7x25
牟仲甫
松芝群鹿 宋元集絵第二十五開 
23.9x24.3
無款
荷亭銷夏 名絵集珍第五開 
24.5x25.4
無款
無款香実垂金 名絵集珍第九開
24.3x27.5
無款
秋荷野鳧図
79.4x46.4
高克恭
群峰秋色
159.9x104.8
朱德潤
煙嵐秋澗
102.6x44.3
倪瓚
江岸望山図
111.3x33.2
無款
嘉禾図
190.2x67.9
無款
射雁図
131.8x93.9
無款
画天中華瑞
181.1x95.2
無款
建章宮図
27.8x65
王紱
独樹図
113.7x39.4
夏昶半
半窓晴翠図
139.2x45.3
杜瓊
南湖草堂図
119.8x55.5
王諤
画渓橋訪友
172.1x105.8
顧正誼
山水
104.2x63
陳洪綬
古木双鳩図
141x46.5
陳淳
画重陽風雨図
119.3x59.2
無款
內府騶虞図
51.9x125
王時敏
浮嵐暖翠
163.4x99.1
王翬
倣王蒙夏日山居図
70.1x34.9
呉歷
倣呉鎮山水
199.2x106.1
郎世寧
雲錦呈才
59x35.4
沈源
画夷則清商
179.4x106.2
丁観鵬
画南呂金行
179.3x106
金廷標
画仙舟笛韻
71.4x71.4
周鯤
升平万国図
31.3x480.5
金昆
清長寿永(第1、2、3、5、7、10、12開)
33x30.2