南アジア亜大陸を流れるガンジス川が悠久の歴史を持つインド文化を育みました。インド文化はアジアのみならず、世界各地で発展した主要な宗教にも影響を与え、ヒンズー教や仏教、シク教などもこの大河文明から生まれて発展し、繁栄したのです。人々や物品の移動、宗教の伝播に随って、インド文化の影響は東アジアや西アジア、東南アジアなどの地域へと広まりました。そこから新たな文化が生まれて変化を続け、芸術文化に豊かなインスピレーションをもたらしたのです。

 こちらの展示室では、「10世紀 インドカシミール地方またはヒマーチャル・プラデーシュ州 シヴァ神と女神パールヴァティー」と「15世紀 ベトナム 青花加彩猴王」が展示されています。この地域特有の味わいを持つすばらしい美術品2点を通して、インドとベトナムの美術や文学、宗教の魅力を感じただきます。

シヴァ神と女神パールヴァティー

  1. インドカシミール地方またはヒマーチャル・プラデーシュ州
  2. 10世紀

彭楷棟氏より寄贈いただいた神像は、ヒンズー教の主神シヴァとその妻パールヴァティー、シヴァの乗り物である聖牛ナンディを表した像です。シヴァ神の眼差しは優しく穏やかで、口元に慈悲深い笑みを浮かべています。後ろからおっとりした様子で頭を出す聖なる牛ナンディが、どこか朗らかな躍動感と生命力をこの場面に与えています。この主題は「シヴァ神と女神パールヴァティー」と言われ、東南アジアのヒンズー教圏で広く見られるものです。

シヴァ神と女神パールヴァティー

青花加彩猴王

  1. ベトナム
  2. 15世紀

この磁器はベトナム沿岸の海底から引き上げられたものです。供物を捧げようと跪く猿の王を象った磁器です。その姿形や衣服は人と同じで、武器まで携帯しており、強大な力を秘めた猿の神であることがわかります。青花の地に描金と鮮やかな色で彩られており、その色彩美がこの貴重な磁器の価値を一層高めています。

インドの民間信仰や文学作品に登場する猿の神は、インドの人々にとってかなり特別な存在です。インドの長編叙事詩『マハーバーラタ』では、猿の神ハヌマーンが勇敢に主人を守る物語がかなりの紙幅を割いて描写されています。ハヌマーンの神通力や主人を守り助けるイメージは、インドの紋様や芸術に影響を与えただけでなく、中国の古典小説『西遊記』の主人公孫悟空のモデルだとも言われています。このベトナム製の神猴磁器像は、強大な神力を持つハヌマーン神のイメージに、吉祥や守護の願いを託して制作されたものかもしれません。

青花加彩猴王