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帝王のコレクション

祥哥剌吉公主だけでなく、他の皇族も書画の収蔵に関心を持っていました。公主の婿である元文宗(トク・テムル / 在位期間1328-1332 )も熱心な収蔵家の一人でした。元文宗は名を図帖睦爾といい、奎章閣を設置して、柯九思などの文人らの協力の下、多数の書画作品を収蔵しました。元文宗の鑑蔵印には「天暦之宝」や「奎章閣宝」などがあります。趙幹の「江行初雪」には「天暦之宝」が見られ、巻末に奎章閣文臣による題名が多数残されています。宋徽宗帝の「蝋梅山禽」にもこの二つの印があり、元文宗コレクションの相貌がうかがえます。

元朝最後の皇帝である元順帝(在位期間1333-1370)も帝王の名の下に書画作品の収蔵を行いました。元順帝は名を妥懽帖睦爾(トゴン・テムル)といい、元文宗の后に支持されて帝位を継承しました。奎章閣は至元6年(1340)に撤去され、代わりに宣文閣が設置されると、多くの士人たちがこの建物を中心に活動しました。元順帝の収蔵印「宣文閣宝」は、宋人の「枇杷猿戯」や「小寒林図」などに見られます。いずれの作品もかつては元順帝の収蔵品でした

五代 趙幹 江行初雪図 卷

五代 趙幹 江行初雪図 卷
第2期 11/16-12/26

現存する作品中、五代南唐の画跡として最も信頼できる作品の一つである。李後主(李煜)の書と伝えられる題識があり、画院の画家趙幹の作だとしている。冬に水辺を旅した際に見かけた漁師の暮らしが描かれている。初雪が降り始めた頃、静けさを湛える景観の内に庶民の暮らしの苦労や楽しみが見て取れる。この種の風俗画は単なる事実の記録だけではなく、理想化された部分もある。細部まで丁寧に表現することにより、臨場感溢れる視覚的効果が生じている。もともとは金章宗の所蔵品だったが、天暦2年(1329)に奎章閣の諸臣により献上された。元文宗は自筆で「神品上」と書き入れ、この作品を高く評価している。この評価は元朝宮廷が中原の伝統を受け入れていたことを示すのみならず、芸術を重んじた皇帝というイメージの形成にも繋がっている。
宋人 枇杷猿戯図

宋人 枇杷猿戯図
第2期 11/16-12/26

ビワの木の上で戯れる2匹の黒い猿が描かれている。画面を横切る太い幹を中心に、上部から別の枝が垂れ下がるなど、構図に工夫がある。1匹は太い幹に腰かけ、もう1匹は枝にぶら下がっている。2匹の猿はいたずらっぽい笑みを浮かべて見つめあい、仲睦まじい様子である。物象の質感が丁寧に表現されている。黒い猿の毛も向きを違えた短線で細かに描かれ、墨のグラデーションによる色調の変化もあり、猿の身体と四肢の前後関係がよくわかる。宋代絵画の佳作だと言えよう。この作品には「宣文閣宝」という印があり、元順帝の所蔵作品だったことがわかる。
宋 郭熙 早春図

宋 郭熙 早春図
第2期 11/16-12/26

北宋を代表する山水画の名家郭熙(1023頃-1085頃)は宮廷画家として神宗朝に仕えていた。朝廷官府に多数あった屏風や壁絵は郭熙の手によるものだったという。この作品は左側に「壬子年(1072)郭熙画」という題款がある。伝世の代表作であり、山水画史に名を残す重要な作品の一つである。構図は対称的だが、丸く描かれた山体と立ち込める雲気が組み合わされ、秩序の中にリズミカルな変化が溢れている。墨色の深浅により微妙な陰影が表現され、山水の風景に幻想的な空間が生じている。旅人や船頭、芝刈りをする人物の姿も見え、それがこの絵をより一層生き生きとさせている。画上の「明昌御覧」という印は、この作品がかつて金朝内府に収蔵されていたことを示しているが、元代を経て明朝宮廷所蔵となった。