文物紹介
清朝宮廷造辦処の名牙匠陳祖章が乾隆2年(1737)に橄欖(カンラン)の種を彫刻した蓬船(苫船)。竹を編んだ苫の両側にある窓は開閉できる。中には机や椅子もあり、卓上には食器や料理が並んでおり、設備も充実している。透かし彫りの小窓も開閉することができる。船上には蘇軾の赤壁の旅に同行する人物が8人いる。船底には蘇軾の「赤壁賦」全文が行書で彫ってあり、陳祖章の刻款もある。時代を越えて語り継がれる文学の傑作に描写された「月夜の船遊び」というイメージが、小さな種で作られた船内の人物の様子や、空間配置、細かな描写によって表現されている。息を止めて小さな窓をそっと開けると、窓にもたれて座る蘇軾と共に赤壁を旅しているような気持ちになれる。月明かりに照らされながら、「一葦の如く所を縦にして、万頃の茫然たるを凌ぐ」と表現された爽快感が味わえる。
植物の種を使った極小彫刻は明代に江南地域で流行した民間工芸で、日常的に食する、または薬用果実の硬い種を素材に、その硬度や細かな模様、自然の形状を巧みに活かして、立体、円彫り、浮き彫り、透かし彫りなどの技法を組み合わせて制作された。詩文や人物の故事を表現した作品の出現と流行は、明代中晩期以降の民間工芸に文人趣味が大きく影響したことを示している。この作品は乾隆時代の造辦処に広東の工芸技術が存在していたことを示していると同時に、皇室の趣味嗜好に南方工芸の伝統が与えた影響も反映している。乾隆朝における「蘇州様、広州匠」(蘇州風、広州の職人技)の実例である。