文物紹介
唇口(玉縁)の百鹿尊、やや大きく開いた口、短く直線的な首、緩やかな曲線を描く肩、腰から僅かにすぼまる大きな胴、平らな底。口縁は2本の青い線で装飾されており、首は花や枝葉、桃の実の模様で飾られている。肩には青花で雲紋が描いてあり、茶色と緑色2色の飄帶紋が垂れ下がっている。中央の主紋は岩石や草叢、樹木、雲の間を縫うようにして、五彩の鹿の群れ89頭が描かれている。底近くには地面のような模様が一周しており、赤と緑が互いに映え、にぎわいを感じさせる。底は胎がのぞいており、中央のへこみにのみ釉がかけられ、「大明万暦年製」と青花で書かれた楷書体の款識がある。万暦年間は磁器の製造量が激増したため、朝廷の出費も膨れ上がった。主要製品は前期官窯の典型的な風格を継承しただけでなく、器形や紋飾、装飾技法においても発展を続けた。その中では、五彩に代表される各種の絵模様が盛んに描かれるようになった。題材は吉祥図案や仙人などのほか、仏教と道教に関連する模様が多い。『江西省大志』には、朝廷から求められた磁器制作に対する要求の詳細─器形や数量、装飾のモチーフなどが記録されており、当時の磁器発注に関するおおよその状況や規模が推測できる。特に万暦19年は様式の種類と制作数が最も多い年で、その年に制作が命じられた「五彩百鹿永保乾坤罈」は、この百鹿尊のような作品だった可能性が高い。